絶望しすぎる人はおもしろい「絶望名人カフカの人生論」

絶望名人カフカの人生論

ネガティブさんの予感

カフカ、といえば、かの有名な「変身」が思い浮かぶ人が多いのではないでしょうか。私も中学生ごろに初めて読み、突然虫になってしまうという設定に驚きつつも、

「こんな設定を思いついて、しかもここまで詳しく書けるというのは、心のどこかで本当に『虫になってしまったらどうしよう』と感じている人なのではないか?

と薄々思っていました。

そんななか、仕事で色々とつらかった時期に新潮文庫夏の100冊で初めてこちら(カフカ、頭木弘樹 編訳「絶望名人カフカの人生論」新潮文庫、新潮社)を発見し、すぐに購入しました。読んだ感想、

「やっぱりな(ニヤリ)」

でした。
やはりカフカさん、タダモノではなかった。

カフカ 来歴

オーストリア=ハンガリー帝国領当時のプラハで、ユダヤ人の商家に生れる。プラハ大学で法学を修めた後、肺結核に斃れるまで実直に勤めた労働者傷害保険協会での日々は、官僚機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌となる。 生前発表された「変身」、死後注目を集めることになる「審判」「城」等、人間存在の不条理を主題とするシュルレアリスム風の作品群を残している。現代実存主義文学の先駆者。

カフカ、頭木弘樹 編訳「絶望名人カフカの人生論」新潮文庫、新潮社

この人に共感するのは、専任の小説家ではないということです。病気で働けなくなるまでは、一般的な団体で職員をしていたということなんですね。
もしかしたら、専任の小説家は経済的に不安定だったから、勤めをやめられなかった、ということもあるのかもしれません。ネガティブさんらしい思考です。
ただ、だからといって仕事にやる気がないわけではなく、仕事ぶりはちゃんとしていて、結構昇進していたらしいです。根が真面目なんでしょうね。人として好感が持てます。

あらすじ・構成

「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」これは20世紀最大の文豪、カフカの言葉。日記やノート、手紙にはこんな自虐や愚痴が満載。そんな彼のネガティブな言葉だけを集めたのが本書です。悲惨な言葉ばかりですが、思わず笑ってしまったり、逆に勇気付けられたり、なぜか元気をもらえます。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはいた、巨人カフカの元気のでる名言集。

カフカ、頭木弘樹 編訳「絶望名人カフカの人生論」新潮文庫、新潮社 裏表紙より

この本はちょっと特殊な構成で、全15章ありますが、ほぼ「○○に絶望した!」というタイトルで、心の弱さ、親、人付き合い、仕事、ありとあらゆるものに絶望しています。

右側にカフカのことば、左側に編訳者の解説、という構成ですので、内容はギッチリしていなく、とても読みやすいです。

編訳者:頭木弘樹さん 来歴

ここで、編訳の方の紹介もさせてください。

筑波大学卒業。大学3年の20歳のときに潰瘍性大腸炎を発病し、13年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、2011年に『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社)を出版。以後、さまざまな本を執筆している。

Wikipediaより

13年間闘病されています。この方自身が、まさしく絶望のなかにいた経験のある方なのです。
その方が救われたということですから、説得力はハンパじゃありません
おそらく体調には波があろうかと思いますが、精力的に活動されており、著作も定期的に発表されているので、個人的に、ネガティブ界隈で注目している方です笑。

印象的なことば

ミルクのコップを口のところに持ち上げるのさえ怖くなります。
そのコップが、目の前で砕け散り、破片が顔に飛んでくることも、
起きないとは限らないからです。      ___ミレナへの手紙

カフカ、頭木弘樹 編訳「絶望名人カフカの人生論」新潮文庫、新潮社 P38

「そんなこと考えても仕方なくない!?」

と言われてしまいそうな言葉…
でも、こういうこと、あります。私も「今地震が起きたら…」と割と常に怯えている人間です汗。電車とかだと、変な人が乗ってたらどうしようとか。電車ジャックとか、こわい。
カフカさんもそういう人だったんですね。

ぼくの人生は、
自殺したいという願望を払いのけることだけに、
費やされてしまった。                ____断片

カフカ、頭木弘樹 編訳「絶望名人カフカの人生論」新潮文庫、新潮社 P84

世の中ポジティブが良いとされがちな風潮のなかで、こう言ってくれる人って、ありがたくないですか?私はそうです。

ぼくが何かあなたの気に入らないことを始めると、
お父さん、あなたはいつも、「そんなものは必ず失敗する」と脅かしました。
そう言われてしまうと、
ぼくはあなたの意見をとても敬い、恐れてもいたので、
失敗がもはや避けられないものになってしまうのでした。
ぼくは、自分のやることへの自信を失いました。
根気をなくし、疑心暗鬼になりました。
ぼくが成長するにつれて、あなたがぼくのダメさを証明するために
突きつけてくる材料も増えていきました。
そうやってだんだんと、
あなたの意見の正しさが、実証されていくことになったのです。____父への手紙

カフカ、頭木弘樹 編訳「絶望名人カフカの人生論」新潮文庫、新潮社 P102

解説にもありますが、ここでは父親から息子への言葉としてありますが、どの親子関係でもありえますよね…後から考えると、自分のためを思って言っていたのかも、と思えることでも、自分のやることを全否定された気持ちになって、自信を失って、最終的に親の言いなりになるしかなくなってしまう。マインドコントロールに近い。
今流行りの「毒親」ということなのかもしれません。

と、この本にはありとあらゆる絶望が詰まっています。
でも、読み終わったあとは不思議と元気が湧いてきます。ネガティブなのは自分1人ではない、と、仲間が増えた気持ちになるからではないでしょうか。
周りに自分以上にネガティブな人がいなくて、孤独感を感じている方には非常にオススメです。

カフカに興味を持った方はこちらも

カフカさんとお友達になれた暁には、冒頭でも書きましたが、ぜひ代表作の「変身」を読んでほしいです。(超有名なので、とっくに読んでるよって方も多いのかもしれませんが…汗)

カフカ「変身」新潮文庫、新潮社

たびたび話題にのぼる本なので、読んでおいて絶対に損はありません。
また、カフカの人柄を理解した上で読むと、「ただの突飛な設定の話」と感じて終わるのでなく、その作品を生み出したカフカの性格、感情的な背景と相まって、より深く味わうことができるように思います。