最強のペシミスト(厭世主義者)シオランのことば

ネガティブ界のラスボス(?)シオラン

私は超ネガティブで、暗いことにかけてはかなりのものと自負しています。
あまりにも周りの人と比べて暗いので、いつも落ち込んでいます。

シオランの名前は、何回か目にしたことはあったのですが、高価で本格的な著作しかなく、なかなか購入に至らなかったのですが、数か月前にたまたま本屋でこちらを見つけ、
「よさげな入門書が出ている!!あと、タイトルめっちゃそそる!!!」
と、反射的にレジに持って行った一冊(我ながらヤバいやつ)。

筆者:大谷 崇さん 来歴

1987年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学第一文学部総合人文学科哲学専修卒業。同大院文学研究科人文科学専攻哲学コース博士後期課程在籍中。2018年よりルーマニア国立バベシュ・ボヤイ大学に留学中。戦間期ルーマニア思想史およびシオランの思想を専門とする。おもな著作に、共著『交域する哲学』(月曜社、2018年)、論文「精神の敵対者としての政治:戦間期ルーマニア若手知識人の「政治」および「精神」概念の分析」(『東欧史研究』第41号、2019年3月)などがある。

「生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想」大谷崇、星海社新書、星海社

出版当時(2019年12月)のプロフィールになりますので、今は少し変わっているかもしれません。しかし、私と年が近い!親近感が湧きます。
とても共感したのは、あとがきのこの部分。

(大学生)当時の私は非常に鬱々とした人間で(今もあまり変わらないかもしれないが)、ネガティブな言葉しか受け付けず、厭世的な作家を読み漁っていた。音楽を聴いても、ポジティブな歌詞が出てきたとたん、うるせえ死ねと思ってただちに消していた。その結果、ネガティブな曲のほかは、歌詞がない音楽と、歌詞が意味不明な音楽しか聴けなくなってしまった。

「生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想」大谷崇、星海社新書、星海社、P341

あ、この方、絶対友達になれます。
ぜひお話ししたい。
大谷さんは卒論のタイトルを考えていたときにシオランに出会い、衝撃を受けて彼を専門とすることに決めたとのこと。
哲学者に対して愛情があると、研究もはかどりそうです。

シオラン 概要

シオランは1911年にルーマニア人の家庭に生まれました。
10歳のときにドイツ人の家庭に留学し、ドイツ語を習得します。
大学は首都ブカレストの大学に進学しますが、そこではフランス語が主流で、なかなか馴染めず苦労したようです。
ドイツに留学後、ルーマニアで教師をしていましたが、いろいろとエキセントリックで、生徒からの評判は散々だったようです。
その後フランスへ留学し、最終的にはフランス語で作品を書くことを決意します。
このように、文化のはざまで育ったということが、彼の気質にも影響を与えていたと考えられます。

最終的にはノーベル文学賞を打診されるほどの作家となったシオランですが、生涯うつと不眠に悩まされ続け、最終的にはアルツハイマー病に冒され、言葉も話せなくなり、自分が誰かもわからなくなり、亡くなります(84歳没)。

30代ごろのシオランさん。いかにもってかんじ(wikipediaより)

構成

この本の構成は、少し変わっており、しっかり流れをもって読む部分と、言葉の紹介と大きく2種類に分けられます。

まず、シオランの生涯を概観します。
それから、第1部として、シオランの言葉を「怠惰と疲労」「自殺」「憎悪と衰弱」「文明と衰退」「人生のむなしさ」「病気と敗北」の6つのテーマから読み解きます。
続いて第2部として、筆者のシオランについての総合的な分析と結論が述べられます。

最初にシオランの来歴について知ることができ、時代背景や境遇をまず知ることで、シオランの言葉への理解が深まりますので、大変ありがたい。また、シオランの人柄がわかるエピソードもふんだんに盛り込まれているのも、シオランの故国ルーマニアに留学されているからこその部分もありそうです。

そのあと、テーマごとにシオランの言葉がまとめられていますが、これは気になるテーマから読んでも大丈夫かと思います。個人的には、いきなり第2部のまとめから読んでもよいと思いますが、筆者は第1部から読んでほしいということ、また、第1部の中でも推奨される読む順番をまえがきで述べられていますので、できれば第1部から読みましょう。
全体のページ数は350ページ程度ありますが、読みやすいです。

やはり、最強

読んでみて、思った以上にヤバい人でした。
これはさすがに友達がいないのではないかと、心配になるくらいの後ろ向きさ。
(でも、生涯を通じての伴侶もおりました)
なんていうんでしょうか、ただ暗いだけではなく、もはや攻撃的ですらある暗さです。
アグレッシブネガティブとでも言おうか…この思想を生涯貫き通すって、よっぽどよ。

一部、気になった言葉を抜粋します。

独りでいることが、こよなく楽しいので、ちょっとした会合の約束も、私には磔刑にひとしい。

「生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想」大谷崇、星海社新書、星海社、P3

生にはなんの意味もないという事実は、生きる理由の一つになる。唯一の理由にだってなる。

「生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想」大谷崇、星海社新書、星海社、P236

健康である限り、人は存在しない。もっと正確に言えば、自分が存在していることを知らない。

「生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想」大谷崇、星海社新書、星海社、P248

私は生を嫌っているのでも、死を希っているのでもない。ただ生まれなければよかったのにと思っているだけだ。

「生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想」大谷崇、星海社新書、星海社、P302

ペシミズムとは「生きる知恵」である

大谷さんは、シオランは、「失敗した、挫折した、中途半端な思想家であり、ペシミストである」と言います。しかし、それで終わりではなく、失敗した思想家だからこそ素晴らしい、と。

詳しい解説はぜひ本作を読んでいただきたいですが、確かにシオランは多分に自己矛盾を孕んだ思想家ではありますが、それが非常に人間味があるといいますか、あくまで苦しみ続けることで、苦しんでいる人に寄り添い続けたいと、無意識に思っていたのではないかと個人的に感じました。
言葉は攻撃的なほどに後ろ向きですが、どこか優しさを感じるんですよね。
非常に魅力的な哲学者だと思います。

シオランに初めて触れるには最適な本だと思いますので、暗い人、必読です。