イスラーム=過激、暴力的、なのか?
イスラム教って、なんとなく怖い、という印象を持っていないでしょうか?
藪から棒に何を言い出すかと思えば、こいつ宗教の話始めた!超怪しい!と思わないでいただきたい泣。
今回紹介するのはあの、歴史系の出版にかけては権威のある山川出版社さんによるイスラーム入門にうってつけの一冊です。
というのも、私自身、小6のときに9.11の同時多発テロを目の当たりにして、イスラームに対して怖い、という印象を強烈に持ったためです。
その後、うっすらとそういった意識をもったまま社会人になってしまったのですが、今度はIS(イスラム国)の台頭などもあり、イスラームへの興味というか、問題意識が再燃し、
「そもそも私はイスラームについて正しく理解できているのだろうか?」
と感じ、一度ちゃんとした専門書を読んでみた方がよいのではないか、と思ったことから、よさそうな本を探しました。そこで出会ったのがこの本でした。
この本に出会うまで
何かについて調べたい、と思ったときには、ある程度のネームバリューのある出版社であること、筆者の経歴(信憑性が持てそうな経歴か)などは大いに参考にします。
特に、今回宗教という非常にセンシティブな内容ともなると、偏ったものを最初に手に取ってしまうと、その後のその宗教のとらえ方にも影響が出てしまう可能性がありますので、より慎重になります。
できれば、関連本を複数読んで比較できればより偏りは少なくなりそうなのですが、そこまでの時間もない…ということで、まず歴史といえばの山川出版社さんを頼ってみることにしたわけです。
この世界史リブレットシリーズというのは、山川出版社さんが、1冊につき1テーマを取り上げ、その道の専門家が解説した小冊子です。2022年11月現在、128冊出版されているようです。また、特定の人物をテーマにした世界史リブレット人シリーズというものもあります。
このシリーズの特徴はなんといってもその薄さ!今回紹介する本は約90ページの薄さです。
おまけに、文章みっちりではなく、写真も多く、またページ上部1/5程度が用語解説に充てられているため、体感としてはさらに短いです。
数百ページある専門書を読む自信がなくても、また、新書ですらちょっとしんどいと思われても、この程度であればなんとか通読できそうな気がしませんか。
私は大学時代哲学専門でしたが、学科として歴史専門の人と同じであったため、歴史の授業も多く、そのなかでこのシリーズの存在を知った気がします。歴史専門の方にとっては、割合馴染みがあるのではないかと思いますし、本屋さんにも割と置いてあるのですが、いかにせんその薄さが仇となり、目に留まらないのです。ほんともったいない。
(ちなみに、私は文系だったので、受験に日本史か世界史は必須だったため、一応世界史選択でしたが、歴史超苦手でした。暗記が苦手だったので。なので、文系にも関わらず、歴史系の本は敬遠しがちであることを白状しておきます。)
ということで調べたところ、タイトル的にもちょうどよさそうでしたので、購入したところ、これは大当たりでした。
筆者:東長 靖さん 来歴
東長 靖(とうなが やすし)
世界史リブレット15「イスラームのとらえ方」東長 靖、山川出版社
1960年生まれ。
東京大学大学院博士課程中退。博士(地域研究)。
専攻、イスラーム思想、とくにスーフィズム。
現在、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授。
2022年11月現在、62歳でいらっしゃいますが、今でも京都大学に在籍されているようです。
本の構成
それでは、本書の内容について簡単に紹介します。
まえがき 誤解につつまれたイスラーム
1 イスラームのキーワード
イスラームの超基本タームである、イスラーム、アッラー、六信五行、ウンマ(共同体)についての解説。
2 クルアーンとムハンマド
イスラームの教典である「クルアーン(一般的にコーランと言われるもの)」の内容と、イスラームの教祖であるムハンマドの生涯についての概説。
3 イスラーム法
イスラームの戒律について、スンナ派とシーア派とで異なる点も交えて解説。
4 スーフィズム
一般的に「イスラーム神秘主義」と紹介される、イスラームのひとつの立場についての解説。
5 シーア派とスンナ派
シーア派とスンナ派の違いについて解説(これ、混ざりますよね…ちなみに、多数派はスンナ派)
6 イスラームと政治
ムハンマド死去から現代までのイスラーム世界の政治についての解説。
抑えておきたい内容が非常に完結にまとまっています。
あんまり色々と読まずとも、本書を手元において参照することで、基本の部分が身につくと思います。
ムスリムに対して偏見をもたないために
通読してみて、イスラームの考え方は理にかなっているし、極端におかしいと感じることはありませんでした。これまで持っていた印象を修正された部分もありました。
特に強く印象に残ったのは、まえがきの箇所です。
イスラームは宗教ではないのか。いや、宗教である。しかしながらわれわれがふつうに理解する宗教の領域にとどまるものではない。われわれは宗教というと、個人の心の救いを第一義とするものを考え、政治や経済とは無縁なもの(もしくは無縁であるべきもの)と思っている。しかしイスラームはその本質上、つねに社会を問題にし、政治も経済もそのなかに包み込んできた。われわれの考える宗教の枠内にとどまらないのだ。ここのところを誤解して、イスラームをわれわれの考える「宗教」の一つと考えるから、イスラームは理解しがたい存在となるのだ。
世界史リブレット15「イスラームのとらえ方」東長 靖、山川出版社 P7(マーカーは引用者追記)
日本では、「政教分離」ということばがあるように、宗教と政治は切り離すべきという考え方が主流だと思います。ですが、イスラームはそもそもの起源の部分から、政治や法律的な内容を含んでいるために、むしろ不可分な性質を持っているということのようです。これを理解するのは発想の転換が必要で、とても重要な視点だと思います。
また、最後の部分で、東長さんはこうまとめています。
日頃耳にすることが多いのは、過激なムスリムたちの言動ばかりだが、大多数のムスリムは、私たちと同様に日々を安らかに楽しく生きようとしている普通の人々である。一般に流布している言説にまどわされることなく、イスラームを虚心にみつめたいものである。
世界史リブレット15「イスラームのとらえ方」東長 靖、山川出版社 P87