えっ?川端康成がこんな作品を?
みなさんは、川端康成と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
私は、やはり日本人初のノーベル文学賞受賞者ということで、日本を代表する文豪であり、さぞかし美しくて、やや堅苦しい文章を書かれるんだろうな、と思っていました。
ですが、その印象を打破して、読んでみようかなという気になったのは以前紹介した「文豪はみんな、うつ」のこの部分を読んだからでした。
昭和三十(一九五五)年に刊行された『みずうみ』という小説の主人公である桃井銀平は、元女子高教師の中年男性である。妻子持ちであった銀平は教え子の女子高生を恋人にしてしまうが、そのことが勤務先に露見してしまい、学校から追放される。…(中略)…
「文豪はみんな、うつ」岩波明、幻冬舎文庫、幻冬舎 P216
世の常識から自由になった銀平は、あてもなく街をさまよい歩き続けるのであった。美しい女性を「発見」すると、銀平はその後を取りつかれたかのように追跡する。
ストーカーやないかい(@_@)!!こわっ!!!
これは気になり過ぎる。ということで購入したのがこちらです。
主な登場人物
○桃井銀平:元女子高教師。美しい少女を見ると後をつける癖がある。
○水木宮子:25歳の美しい女性。有田老人に囲われている。よく男性に後をつけられる怪しい魅力がある。銀平に後をつけられ、ハンドバッグで殴りつけた。
○水木啓助:宮子の弟。町枝にあこがれを抱いている。
○水野:啓助の友人。町枝の恋人だが、親に町枝との交際を反対されている。のちに病気を患い臥せることとなる。
○町枝:水野の恋人。大変清らかな少女。のちに銀平に目をつけられることとなる。
○玉木久子:高校教師時代の教え子。銀平が初めて後をつけた少女。この女性との恋愛事件をきっかけに、銀平は教職を追われることとなる。
○恩田:久子の親友。久子と銀平の関係を学校に投書したことで、銀平が教職を失うきっかけとなった。
○有田老人:70歳近くの老人。女子高の理事長をしている。宮子を囲っているが、家にも梅子という家政婦がおり、こちらともただならぬ関係。幼い頃に母親と離されたためか、母性に飢えているところがある。
実は久子の父親の知り合いでもあり、久子と銀平の恋愛事件後に、自身の学校への転校の手はずを整える。
○やよい:銀平の母方の従姉。回想でたびたび登場する。
特徴
解説にもありますように、この作品は銀平の「意識の流れ」に沿って展開します。おおまかなストーリー展開はあるものの、その意識は自在に現在と過去を行き来します。すぐに回想が挿入されるため、最初はとまどうところもあるかもしれませんが、読み進めるうちに自然と慣れる程度ではあるかと思います。
登場する女性たち
この作品の主軸になる女性は宮子、久子、やよい、町枝の4人かと思いますが、全員男を惑わす魔性の魅力があるようです。本人が意識していなくても男性を翻弄してしまうところがあり、時には女性すら惑わせています。
また、魔性らしく、関わる男性がほぼ堕落させられている、また、男性と完全に健全な関係を築けていないところが共通しています(宮子は囲われ者だし、久子は教師である銀平と悪びれもせずつきあってしまうし、やよいは銀平の性癖の元となったように思えますし、町枝については彼氏の親からつきあいを反対されています)。
ただ、久子についてはキスしている描写はあるものの、性愛的なニュアンスはあまり感じられません。あくまで追いかけたい、後をつけたいという願望の対象であり、追いついた先に何をしたいか、という具体な願望は読み取れません。川端の女性への思いの向け方もこのようであったのかもしれません。
繰り返し差し込まれる「みずうみ(または水)」のイメージ
また、タイトルであるみずうみ(水)についても、ところどころで効果的に差し込まれているように思います。銀平の母親の故郷がみずうみのほとりであったり、冒頭シーンがトルコ風呂のシーンであったり、女性の瞳がみずうみのようだと形容したり、久子に至っては名字が「水」木であり、友人まで「水」野という名であることは、なにか意味があるように思えてなりません。
歌の歌詞ではありませんが、「女は海」といったところなのでしょうか。
異常行動すら抒情的に書き上げてしまうすごさ
興味のある女性の後をつける中年男性という、下手をするとひたすら気持ちの悪い小説になってしまいそうな題材を、きれいにまとめあげてしまうところはさすが川端康成。
わずか200ページ足らずの作品ですので、一気に読めると思います。
「雪国」が高尚すぎて挫折した方、ぜひここから川端康成に親しんでみてはいかがでしょうか。
(読解に偏り、誤りがありましたら申し訳ありません。Twitterでコメント等いただければと思います)