好きすぎて紹介するのが遅くなってしまった1冊
ピース又吉さんの大ファンです。
芸人としてのネタも好きですし、自由律俳句(定型に縛られずに作る俳句のこと)も大好きです。
言葉のセンスが普通の芸人さんとはちょっと違うなと思っていたら、やはり読書家ということで、いろいろな文章から表現力を身に着けてこられたのだろうな、と思います。
個人的に最もすごいと思っているのが、ネガティブな性格であっても、周りの人まで暗くすることがない、ということです。むしろ周りを楽しませることができる。暗さをユーモアに変えることができる。
ネガティブはいけない、暗い、もっと前向きになれと言われ続けてきた自分にとって、この方の生き方は希望の光のように感じられました。これがネガティブ人間が、性格を変えず、周りの人間に暗さをまき散らすことなく調和してやっていける方法だと。
これには、又吉さんご自身の自己反省力と、謙虚な性格も大事な要素なのだろうと思います。
存命の日本人の中で、又吉さんがネガティブ界のトップランナーと考える所以です。
又吉さんの著作はほぼ読んできましたが、又吉さんという人物を知るのにうってつけの、決定版と呼べるものは2022年12月現在、こちらをおいて他にないと思います。
あらすじ
芸人で、芥川賞作家の又吉直樹が、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」を考える。
また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の創作秘話を初公開するとともに、自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。
「負のキャラクター」を演じ続けていた少年が、文学に出会い、助けられ、いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧みる、著者初の新書。
「夜を乗り越える」又吉直樹、小学館よしもと新書、小学館
おそらく、この小学館よしもと新書が創刊されたのは、又吉さんの影響が大きいのだと思います。
構成
次に構成です。まずは又吉さんのこれまでの人生と本との関わりについて述べられ、「なぜ本を読むのか」という問いに対する持論が述べられます。その後、又吉さんのお気に入りである太宰治と、そのほかオススメの著作が紹介されています。
目次は次のようになっています。
第1章 文学との出会い
第2章 創作について— 『火花』まで
第3章 なぜ本を読むのか — 本の魅力
第4章 僕と太宰治
第5章 なぜ近代文学を読むのか — 答えは自分の中にしかない
第6章 なぜ現代文学を読むのか — 夜を乗り越える
あとがき
1章と2章が又吉さんの半生、4章から6章が又吉さんの読書歴、といったところでしょうか。この本の肝はおそらく第3章ではないかと感じます。新書ですが、非常に読みやすい文体ですので、楽しんで読むことが出来ると思います。
なぜ本を読むのか
本書の中で印象的だった箇所を引用します。
本は僕に必要なものでした。本当に必要なものでした。自分を不安にさせる、自分の中にある以上と思われる部分や、欠陥と思われる部分や、欠陥と思われる部分が小説として言語化されていることが嬉しかった。
「夜を乗り越える」又吉直樹、小学館よしもと新書、小学館 P37
本は著者との対話、とよく言われますが、私も、特殊な感情は生身の人間よりもむしろ本の中にあるような気がしています。
読書によって今までなかった視点が自分の中に増えるということです。本に書かれていることがすべて正しいわけではないので、否定された自分の考えがなぜ否定されたのか、どのように否定されたのかを知り、それについて自分で考えを改めたり、いやそれは違うと反論することによってさらに視点は増えていきます。
「夜を乗り越える」又吉直樹、小学館よしもと新書、小学館 P117
私も究極のところ、読書の意義はこれに尽きるような気がしています。多様な視点や考え方を知るということですね。
最後に、少し長いですが、この本の中で一番好きな箇所です(とはいえ、これもご本人の他の著作「東京百景」からの引用なのですが(^^;)
死にたくなるほど苦しい夜には、これは次に楽しいことがある時までのフリなのだと信じるようにしている。のどが渇いているときの方が、水は美味い。忙しい時の方が、休日が嬉しい。苦しい人生の方が、たとえ一瞬だとしても、誰よりも重みのある幸福を感受できると信じている。その瞬間が来るのは明日かもしれないし、死ぬ間際かもしれない。その瞬間を見逃さないために生きようと思う。得体のしれない化物に殺されてたまるかと思う。反対に、街角で待ち伏せして、追ってきた化物を「ばぁ」と驚かせてやるのだ。そして、化物の背後にまわり、こちょこちょと脇をくすぐってやるのだ。(又吉直樹「東京百景」「九十九 昔のノート」)
「夜を乗り越える」又吉直樹、小学館よしもと新書、小学館 P195
私はこの箇所を読んで、泣きそうになりました。
なんて素直で、誠実な生き方なのでしょうか。それでいて、ちっとも押しつけがましくない。
この著作を読むと、(ネガティブ思考多目ながら)前向きな気持ちになれますし、やさしい気持ちにもなりますし、ますます本が読みたくなります。オススメです!