心を打ちぬかれたタイトル
私のこの作品の出会いは、以前こちらでも紹介した頭木弘樹さんの「絶望名人カフカの人生論」を読んで頭木さんの他の著作も読んでみたくなっていたところ、こちらが近日発売であるということで、楽しみに購入した一冊になります。
ちょうど仕事でつらい状況が続いており、「絶望」という言葉に親和性がありすぎる時期でした。
あんまり楽しみ過ぎたため、刊行記念トークショーにひとりで参戦したという、思い出深い作品です(筆者の頭木弘樹さんと、ラジオで聞き手になっている川野一宇さんと、ディレクターの方の鼎談でして、終始和やかで興味深いものでした)
内容
内容は読んで字のごとし、絶望に関する著名人の名言を集め、それにまつわる話も掲載されているものです。NHKの「ラジオ深夜便」の内容を書籍化したものになりますので、話し言葉で記述されていて、字も大きめで非常に読みやすいです。
この本で取り上げられているのは、
1 カフカ
2 ドストエフスキー
3 ゲーテ
4 太宰治
5 芥川龍之介
6 シェークスピア
の6名です。誰でも一人は興味のある作家がいるのではないでしょうか。
また、それぞれの章についてブックガイドがついていますので、興味を持った際に次に何を読めばよいか迷わずに済みます。(私はこの本1冊から興味が広がり過ぎて、今回改めて数えたら6冊も読んでいました)
この本の良いところは、上にも書いたように話し言葉で、対談形式であること。
聞き手のアナウンサーの川原一宇さんが一般の聴衆の立場から、頭木さんに言葉を投げかけていってくださるので、「一方的に聞かされてる感」がないところかと思います。
また、「名言集」というと本当にその名言のみを書き連ねたものも多い(それはそれでよいところもありますが)なか、自然に紹介している作家の経歴ですとか、その言葉が発された背景を話してくれているので、理解が深まります。
そしてやはり、名言のチョイスがいいです。
私が印象に残った名言
この中から、私が個人的に気に入った名言を引用します。
まずは、太宰治の「斜陽」からの一節。
生きている事。生きている事。
「絶望名言」頭木弘樹、飛鳥新社 P132
ああ、それは、何というやりきれない
息もたえだえの大事業であろうか。
(中略)
僕は、僕という草は、この世の空気と陽の中に、
生きにくいんです。
生きて行くのに、
どこか一つ欠けているんです。
足りないんです。
いままで、生きてきたのも、
これでも、精一ぱいだったのです。 (斜陽)
ほんとにおっしゃる通り(泣)。
ただ生きていることだけでも大事業なんですよね。。。
僕の今住んでいるのは氷のように澄み渡った、病的な神経の世界である。
「絶望名言」頭木弘樹、飛鳥新社 P196
これは、芥川龍之介の遺書の一節ということで紹介されています。
自殺の直前に感じていたことが端的に表れていて、色々と気に病み過ぎる自分には共感できすぎる言葉です。
最後に、シェークスピアの名言。
明日、また明日、そしてまた明日、
「絶望名言」頭木弘樹、飛鳥新社 P232
一日一日を、とぼとぼと歩んでいき、
ついには人生の最後の瞬間にたどり着く。
昨日という日はすべて、
愚か者たちが塵と化していく
死への道を照らしてきた。
消えろ、消えろ、つかの間の灯火
人生は歩き回る影法師、あわれな役者だ。
舞台の上では大見得をきっても、
出番が終わればそれっきり。
我を忘れた人間のたわ言だ。
激情にとらわれて、わめき立てているが、
そこに意味などないのだ。 (マクベス)
個人的にこの一節はこの時期(年末)にちょうどいい言葉だなと思っています。
毎年毎年、年末に1年を振り返るときに、すごいことをやったな、と思える年ってそんなにないと思うんです。それはそれで少し悲しいような気がしますが、「人生なんてたいした意味はない」と言ってもらえると、変な力みがゆるんで、少し気が楽になります。
今年の絶望は今年のうちに消化して、来年もどうにか生きる気力を養いましょう!
ちなみに、「絶望名言」は第二巻も出ていますので、興味を持った方はこちらもぜひ(*^^*)