こちらを読んだきっかけ
こちらの作品は、例によって「必読書150」に掲載があり(注:旧作品名「ソラリスの陽のもとに」として掲載)、読みたい本リストには入っていたのですが、どうもSF小説が苦手で、実際に手に取るのはもう少し先かなと感じていました。
ですが、前回ご紹介した「死にたいのに死ねないので本を読む」で映画監督のタルコフスキーの話が出てきまして、どんな映画を撮る方なのか興味を惹かれて経歴を調べたところ、「惑星ソラリス」というタイトルがあるではありませんか。調べたところやはり「ソラリスの陽のもとに」を原作としているということで、これは先に小説を読まなくてはと思い、購入した次第です。
(ちょうど生誕100年記念カバーのものが残っていたため、ちょっと得した気分)
作者スタニスワフ・レム 略歴
1921年、旧ポーランド領ルヴフ(現ウクライナ領)に生まれる。クラクフのヤギェウォ大学で医学を学び、在学中から雑誌に小説や詩を発表し始めた。51年に第一長編『金星応答なし』を発表。1950年代から60年代にかけて、地球外生命体とのコンタクトをテーマにした三部作『エデン』、『ソラリス』(本書)、『砂漠の惑星』ほかのSF作品を発表。70年代以降は『完全な真空』『虚数』といったメタフィクションを発表した。その深遠かつ巨視的なテーマの作品から、20世紀世界文学史上の巨人の一人に数えられる。2006年死去。
「ソラリス」スタニスワフ・レム、沼野充義(訳)、ハヤカワ文庫、早川書房
この業界では相当に著名な方という事で、今まで存じ上げずに申し訳なかったなあと思います。
また、ウクライナの地域の出身の方という事で…上ではルヴフと表記されていますが、これはポーランド語読みで、リビウのことを指しているということです。レムさんが今ご存命だったら、故郷が今このような状況になっているのを、どんな気持ちで見ていたのでしょうか…。
あらすじ
惑星ソラリス-この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が?ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく…。人間以外の理性との接触は可能か?-知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。
「ソラリス」スタニスワフ・レム、沼野充義(訳)、ハヤカワ文庫、早川書房
上にも書きましたが、以前は「ソラリスの陽のもとに」というタイトルでしたが、以前の訳はロシア語訳を底本としており、原典とずれていた箇所があったということ、また、タイトルももともとは「ソラリス」のみだったということで、「ソラリス」のタイトルの新訳が今は広く流通しているということです。
全体は380ページほどになります。筆者による序文もあり、私はこれがとても理解の助けになりました。
感想
①SF作品なので仕方ないが…イメージ作るの難しい~!
私がSFから逃げ回ってきた理由…それは、SFなので当然と言えば当然なのですが、ロボットとか、ロケットとか、宇宙とかの描写が、読んでも全然イメージが湧かないからです。想像力貧困。
この作品においてもそれは変わらず。多分ロケットの部品なのであろう名称など、サッパリわからず、最初の数ページで挫折しそうになりましたが、ここはもう内容を理解するためと腹をくくり、サーッと読みました(ごめんなさい)。
それは全体に言えることかと思いますので、SFが苦手な人は、もうそういった部分はある程度割り切った方がよいかもしれません。ていうか、もしかしたら映画の方を先に見てイメージをつくってから読んだ方がわかりやすいのかも??
②内容は予想よりもシンプル
しかししかし!!!ここで諦めないでください。内容としては極めてシンプルです。
惑星ソラリスは自らを、やってきた人間の心をかき乱す「来客」に変幻し、次々と狂気に陥れていきます。主人公のケルヴィンもまた、悲しい過去を思い起こさせる「来客」の来訪を受けます。
明らかにそれは本物ではない…はずですが、地球人の脳波等を読むことによって再現された姿は本物そのもの。果たしてそれに対して、人間たちはどう立ち向かうのか。という話です。なんとかなりそうではありませんか?
メインの登場人物も割合少なめです(宇宙ステーションにそんなにたくさん人いられないので)。
③理解を超えた存在と出会ったとき、人はどうなるのかの描写がリアル!
この手の話が私が苦手なのは、フィクションの設定があまりにも現実味のない、ありえなさそうな内容だったりするときに急速に冷めてしまうためです。
ですが、この話は「ありそう」ですし、未確認生物に接した人間たちの精神の壊れていく過程についても非常にリアルです。着地点も安易なハッピーエンドではなく考えさせられます。
本当に人間の理解を超越した存在に対して、人間サイドの理屈に引き寄せてどうにかこうにかしようとすることは傲慢なのかもしれません。今色々と地球環境問題などもありますが、自然に対しても同じようなことが言えるのかもしれません。
SF、ありかも
SFから逃げ回ってきた私ですが、この作品は現実と虚構のバランスが良く、とても引き込まれました。
また、科学技術の進歩が目覚ましい今、サイエンス・フィクションというのは、未来予想図をリアルに考えるにあたって非常に現実的で重要な役割を果たすものなのではないかと感じました。
また、面白そうなSFが見つかったら、できる限りチャレンジしてみようとこの本を読んで思いました。