遠藤周作、またの名を狐狸庵先生 遠藤周作「ぐうたら人間学」

この本を読んだきっかけ

遠藤周作といえば「沈黙」、または「海と毒薬」といった、重々しい小説が思い浮かぶ人が多いのではないでしょうか。キリスト教信者ということで、宗教的な作品が多い印象です。

私は高校の時の課題で「沈黙」を必ず読まなければならなかったのですが、「こんなに深刻な話を書くのだから、さぞかし真面目で哲学者のような人なのだろう」と勝手に思っていました。

ですが、遠藤周作先生は、結構愉快な方らしいのです(同時代を生きていた方には有名だそう)。
以前ご紹介した「絶望名言」の2巻の方で遠藤周作についての紹介があり、そちらで引用されていたのがこちら。タイトルからして非常に面白そうでしたので購入しました。

概要

ぐうたら人生の味を開陳する狐狸庵山人の珍妙なる人間学。秀吉の夫婦喧嘩を仲裁する信長に英雄偉人の尻尾を覗き、酒癖のあれこれに人情風俗の妙を知る。権威や独善には背を向け、劣等生的人間に豊かさを見、親愛感を覚える。愛すべきはマヌケ人間、語るべきは気弱人間。人生の味をいかんなく示すエッセイ。

「ぐうたら人間学 狐狸庵閑話」遠藤周作、講談社文庫、講談社

本文としては約320ページの中に、80編ほどの短いエッセイが収録されています。
ひとつひとつが大変短いので、読みやすいですが、私の読んだ講談社文庫版は字がかなり小さ目ですので、結構読みごたえがある量です。

狐狸庵閑話というのは、「こりゃあかんわ」のもじりだそうです。うまいですね。

遠藤周作 来歴

1923年東京都生まれ。1948年慶応義塾大学仏文科卒業。1950年カトリック留学生として、戦後初めての渡仏、リヨン大に学ぶ。1955年『白い人』で第33回芥川賞受賞。1958年『海と毒薬』で新潮社文学賞、毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で谷崎潤一郎賞、1980年『侍』で野間文芸賞、1994年『深い河』で毎日芸術賞を受賞。また狐狸庵山人の別号をもち、「ぐうたら」シリーズでシャレ、ユーモア作家としても一世を風靡する。1985年~1989年日本ペンクラブ会長。1995年文化勲章受章。1996年9月、73歳で逝去。

「ぐうたら人間学 狐狸庵閑話」遠藤周作、講談社文庫、講談社

ここでも、ユーモア作家として有名であったとありますね。私と同年代くらいの人って、そういう認識、あるのかな…?

感想

①気楽に読める楽しいエッセイ

まずは、本当に愉快なエッセイとして楽しめます。
内容としては、日常の些細なできごとであったり、下品なこともあったり、中にはデヴィ夫人との対談のエピソードなど、著名人との交流の話もあり、シンプルに楽しいです。

②ユーモアの中に見え隠れする哀愁

ですが、ここが狐狸庵先生の真骨頂と言いましょうか。自分の弱さやダメなところを曝け出す自虐エピソードが数多く出てきます。髪が薄くなって困っている話、自分が音痴過ぎるという話、涙もろくなった話、などなど。そこからは、生きることの哀しさみたいなものが感じられます。

③人間としての懐の深さを感じる

私の個人的な考えとして、本当に人が出来ている人というのは、どこかユーモアのセンスがある気がしています。人を楽しませようという気遣いがユーモアとして出ると思っていて、要や相手への思いやりだと思うのです。

かといって、面白いだけでなく、生きることの苦しさも理解しているからこそ、「沈黙」や「海と毒薬」のような、人間の本質をえぐるような重い作品も書くことが出来るのだと思います。人としての懐の深さがある方だと思いますので、そういった人のエッセイというのは、それだけで何か受け取るものがある価値がある読み物になっていると思います。

遠藤先生はオモシロイということを知ってほしい

私は最近まで遠藤周作という人を堅苦しい人、とちょっと誤解して来てしまったので、私と同じような誤解をしている方には、ぜひ「沈黙」などを読むのとあわせて、こういったエッセイも読んでいただきたいです。そうすることで、小説の受け止め方もかなり変わると思います。おすすめです。