最近の創作だけど神話 H・P・ラヴクラフト「狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選」

この本を読んだきっかけ

夏になると毎年楽しみなのが、各出版社の夏の文庫フェア。
私は特に新潮文庫が中学生くらいからずっと好きで、新潮文庫だけは毎年ラインナップをチェックしています。新潮文庫夏の100冊は毎年レギュラーとなっている作品が多いのですが、2021年頃から新しく入るようになってきたH・P・ラヴクラフト。2021年、2022年は「インスマスの影」がラインナップされていました。なんとなく禍々しい雰囲気がとっても気になっていたのですが、今年はこの「狂気の山脈」に代わり、表紙にも惹かれついにチャレンジしてみることにしました。

概要

ダイヤー率いるミスカトニック大学探検隊は、南極大陸に足を踏み入れた。彼らは禁断の書『ネクロノミコン』の記述と重なる、奇怪きわまる化石を発見する(表題作)。一九〇八年五月十四日、ピーズリー教授の身に異変が起きた。“大いなる種族”との精神の交換がなされたのだ(「時間からの影」)。闇の巨匠ラヴクラフトの神話群より傑作八篇を精選し、新たに訳出。あなたに、眠れぬ夜を約束する。

「狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選」H・P・ラヴクラフト、新潮文庫、新潮社

クトゥルー神話とは?

クトゥルフ神話(クトゥルフしんわ、Cthulhu Mythos)は、パルプ・マガジンの小説を元にした架空の神話。

20世紀にアメリカで創作された架空の神話である。作中では逆に、人類史の神話は太古からのクトゥルフ神話の派生であるということになっている。

パルプ・マガジンの作家であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトと友人である作家クラーク・アシュトン・スミス、ロバート・ブロック、ロバート・E・ハワード、オーガスト・ダーレス等の間で架空の神々や地名や書物等の固有の名称の貸し借りによって作り上げられた。

太古の地球を支配していたが、現在は地上から姿を消している強大な力を持つ恐るべき異形の者ども(旧支配者)が現代に蘇ることを共通のテーマとする。そのキャラクターの中でも旧支配者の一柱、彼らの司祭役を務め、太平洋の底で眠っているというタコやイカに似た頭部を持つ軟体動物を巨人にしたようなクトゥルフが有名である。

Wikipediaより

架空の神話だそうです。私はまったく聞いたことがなかったので、ギリシャ神話などのようなものなのかな、と思っていたため、最初読んでよくわかりませんでした笑。
そもそも創作である、という意識で読むことが必要だと思います。

H・P・ラヴクラフト 来歴

(1890-1937)アメリカ・ロードアイランド州生れ。病弱で、少年期から幻想小説、怪奇小説に耽溺。30代から「ウィアード・テールズ」などのパルプ雑誌に寄稿。60篇ほどの作品を発表したが、単行本として刊行されたのは『インスマスの影』1冊のみ。不遇のまま生涯を閉じる。友人オーガスト・ダーレスらの尽力もあり、死後にその独自の作風が高く評価される。〈クトゥルー神話〉の始祖として、多くの作家に影響を与え、世界中の読者に敬愛されている。

「狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選」H.P.ラヴクラフト、新潮文庫、新潮社

46歳没ということで、非常に短命な作家さんです。生前は名声を得られなかったようですが、近年研究が進んできているようです。エドガー・アラン・ポーが好きだったという事で、同じくポーが好きな私としてはうれしい。

「狂気の山脈にて」収録作品

〇ランドルフ・カーターの陳述(14ページ)
〇ピックマンのモデル(28ページ)
〇エーリッヒ・ツァンの音楽(18ページ)
〇猟犬(16ページ)
〇ダゴン(12ページ)
〇祝祭(18ページ)
〇狂気の山脈にて(187ページ)
〇時間からの影(123ページ)

読んでいてびっくりしたのが、作品のページ数の差です。最初の6作品は非常に短くサクサクいけるのですが、最後の2作品が急にズシンと来ます笑。
エドガー・アラン・ポーも長い作品と短い作品の差が激しい印象なので、なんとなく似たものを感じてしまいました。

本作収録作品群の特徴

特徴① 得体のしれない怪物

収録作品には全体的に共通点がいくつか見られます。まず一つ目が得体のしれない怪物がほぼ確実に出てくる、ということです。それらは人間界にいるものではありません。多少描写のあるものもあれば、それを目にした人間の感想だけのものもあったと思います。

個人的には、ここは好き嫌いが分かれるところかな、と思いました。というのも、「わけのわからない、とにかく恐ろしいものがいる」という感じの描写が多いため、具体的にどんな生き物なのかは、読者の想像力に頼る部分が大きいと感じたためです。誰にでも恐怖心はあるわけで、それを最大限に引き出すような書き方をすれば、個々人が最も恐ろしいものを想像するため、それは怖いに違いないのですが、どうも私には表現を放棄しているような印象を持ってしまいました。

特徴② 怪物に近づいたものは狂いがち

また、特徴的なのは語り口です。基本的に独白調の、一人称の書きぶりとなっています。恐ろしい体験をした人物が、体験したことを語る、という形式です。
自分自身がおかしくなってしまった、という人もいますし(とはいってもお話はできるのですが)、一緒にいった友人がおかしくなった(または死んだ)というパターンもあります。
人智を超えた恐ろしいものに出会っているので、まぁおかしくなっちゃうのはわかりますが、ことごとくみんなおかしくなってしまうので、途中からちょっと楽しくなってしまいましたね。

特徴③ 微妙に理系テイスト

これもかなり特徴的だと思ったのですが、得体のしれないものを探しに探検に行く、というような話が多いため、地形であったり、そこでみつける物質の材質であったり、理系な感じのワードが多く登場します。これがなかなか文系人間にはしんどかった…笑!なかなか想像ができないんですよね。すごーく詳しく書いてくれているのですが…ここは自分の力不足です。
あと、先に書いたように独白調なので、時系列がどうしても順を追った説明となるので、単調になりがちな印象。そのため、短編は面白く読めるのですが、長編がなかなかにシンドイというのが私の印象でした。

クセになる怪奇小説

色々と書きましたが、想像を超えた怪物や、それに接した人間の恐怖心をこれだけ書くというのはエネルギーがいることですし、新感覚でおもしろかったです。
クトゥルー神話は初挑戦だったのですが、ゲームやアニメなどにも影響を与えているという事なので、「こういうものなのか!」ということを知ることができたのも大変有益でした。
他の作品もゆくゆくは読んでみたいなと思います。暑い夏に怪奇小説、おすすめです。