「女」芸人であることの苦悩 西澤千央「女芸人の壁」

この本を読んだきっかけ

最近、LGBTQもいう言葉も広く知られるようになり、よりジェンダーの話題が増えた気がします。
ただ、男性であること、女性であることが強く意識されるようになったことで、かえって息苦しく感じるようになった気もします。

私はお笑いが大好きなのですが、だいぶ前から、女性芸人というのはとても大変な立場だなと思っていました。私自身、男性芸人なら普通に笑えるのに、なぜか女性芸人だとどこか引っかかってしまう、ということが多い。女性芸人さん自身も、女性だからこそ苦しかったことが多いだろうな、と感じていました。

女芸人のつらさにフォーカスを当てた本ってないのかな?とふと検索したところ、ありましたありました!しかもかなり最近の本(2022年11月刊)なので、内容もきっとタイムリー!と、即座に購入しました。

概要

女性芸人といえば、当たり前のように「ブス」「デブ」「非モテ」をいじられ、そこで強烈なインパクトを残すことが成功への足がかりとされてきた。しかし、持って生まれた容姿や既婚かどうかといった社会的属性などを「笑う」ことに対して、今、世間は「NO」という意思表示をし始めている。
上沼恵美子、中島知子、青木さやか、Aマッソ・加納愛子……「個人としての感覚」と「テレビが求めるもの」、そして「社会の流れ」。三つの評価軸の中に揉まれながら生きてきた女性芸人たちへの「文春オンライン」連続インタビュー企画「女芸人の今」を、 書き下ろしのコラム5本と特別対談を加え書籍化。彼女たちの葛藤を通じて、日本社会における女性の立ち位置の変遷を追う。

西澤千央「女芸人の壁」文藝春秋

インタビュー掲載芸人

・山田邦子さん
・清水ミチコさん
・中島知子さん
・青木さやかさん
・ホルスタイン・モリ夫さん
・鳥居みゆきさん
・日本エレキテル連合さん
・Aマッソ・加納愛子さん
・納言・薄幸さん

筆者 西澤千央(にしざわ・ちひろ)さん 来歴

1976年、神奈川県生まれ。実家の飲み屋で働きながら、『KING』(講談社)でライターデビュー。現在「文春オンライン」(文藝春秋)や『Quick Japan』(太田出版)、『GINZA』(マガジンハウス)、『中央公論』(中央公論新社)などでインタビューやコラムを執筆。

西澤千央「女芸人の壁」文藝春秋

感想

感想①ベテランから若手まで、幅広いインタビューがおもしろい

まず、対談相手の豪華さに目を惹かれました。
誰でも知っている女性芸人、おまけに大ベテランから今をときめく若手まで。この一冊でお笑い界における女性の扱われ史を俯瞰することができます。

山田邦子さん、清水ミチコさんなどは、もちろん存じ上げていましたが、最盛期をリアルタイムで見たことがなかったのですが、この本を読んでいかにすごかったのかということを感じることができました。

個人的にこの本を読んでよかったなと特に思ったのが、鳥居みゆきさん。
ブレイク当時は芸風があまりにも奇抜すぎて、正直受け付けにくいところがありましたし、正直何を考えているのかわからなかった。でも、このインタビューで読んだ素の鳥居さんはとってもナイーブで、芸に対しても真剣に考えてのあの芸風だということがとてもよくわかり、鳥居さんのことが好きになりました。

感想②全員謙虚で真摯であることに感銘

この本を読んで感動したのが、全員すごく悩みながら芸人をやられているということ。

男性芸人などから差別的な言葉を浴びせられたりするなかで、“女”芸人としてどう振る舞うべきかを模索し、自分なりのスタイルを確立する姿はまさに十人十色。

ですが、行き着くスタイルは違えど、それぞれが本当に誠実に自身の芸風や立ち位置を考え抜いたからこそ、売れることができたのだと思います。運ももちろんあるかもしれませんが、全員間違いなく素直で真摯であること、これが大事だったのかなと思いました。

テレビを通して見る姿は、当然ながらつらさや苦しさを微塵も感じさせません。でも、その裏では葛藤や悩みを抱えている人ばかりで、そういう言葉を聞くことができたという意味でとてもこの本は貴重だと思います。

感想③芸の世界で「女」を生きる姿に勇気づけられる

芸の世界というのは残酷です。理屈ではなく、面白いか、面白くないかですべてが決まってしまう世界。

女性が大きな声を上げて面白おかしいことを早口でしゃべる、そのこと自体に違和感を覚えて、生理的に笑えない、という方もいると思います。

そんななか、おそらく女性である時点で男性芸人に比べてかなり足枷の多い女性芸人。
一般社会であれば、制度がおかしいなり、苦痛を受けたなり、理屈で差別を是正させることができます。しかし、芸の世界ではそういうことはできません。

そんな厳しい環境にもかかわらず、とにかく人を笑わせる、楽しませるために努力し悩む姿は、同じ女性として尊敬しますし、勇気をもらえます。

本当にいい本。全員読んでほしい!

最近あまりにも性差に関する話題が多すぎて、気分が悪くなってしてしまうこともあるのですが、どんなかたちであれ、性の違いによってつらい思いをする、ということはなくしていかないといけないと思います。ただ、人によって受け止め方は違うので、相手がどう思うかを推しはかりながら。

普段なかなか聞くことができない女芸人のホンネからは、他の角度の本からは得ることのできない、とても大事な視点を授かることができるように思います。

素直に芸人の本としても面白いので、男女問わず、ほんとにおすすめです。