この本を読んだきっかけ
私は以前より又吉さんの大大大ファンでして、以前このブログでも「夜を乗り越える」について書かせていただきました。
「東京百景」はずっと知っていましたし、ずっと読みたいと思っていたのですが、又吉さんの本は未読を残しておきたい気持ちが強く、逆に手が出ないでいました。
しかし、ふと無性に初期の又吉さんのエッセイが読みたくなり、文庫化されたこともあり、ついに購入!(最近出た「月と散文」をまず読めよ(^^;)
概要
芥川賞受賞作『火花』、4月公開の話題の映画の原作小説『劇場』の元となるエピソードを含む100篇のエッセイからなる又吉文学の原点的作品『東京百景』が7年の時を超えて、待望の文庫化。
「東京百景」又吉直樹、角川文庫、KADOKAWA
18歳で芸人になることを夢見て東京に上京し、自分の拙さを思い知らされ、傷つき、苦しみ、後悔し、ささやかな幸福に微笑んだ青春の軌跡。東京で夢を抱える人たちに、そして東京で夢破れ去っていく全ての人たちに装丁を一新し、百一景と言うべき加筆を行い、新しい生命を吹き込んで届けます。
実に文庫化までに7年もかかっていたとは。私は7年近く待っていたということか…笑
感想
感想①クセになる又吉さん独特の文体
優れた作家には「文体」というものがあり、誰が書いたかを知らなくても、その文章を読んだだけで誰の文章かがわかるものだと聞いたことがあります。
又吉さんはまさしくそうで、他の誰とも違う独特の文体があると感じます。ざっくりいうと、素直で正直、時々突拍子もなくネガティブ(もはや被害妄想に近い)。ですが自虐と笑いのバランスが絶妙なので、読んでいて嫌な感じがまったくしません。読後感はとっても爽やかです。これはもとの才能プラスお笑い芸人さんとしての訓練の賜物でしょう。
感想②テイスト・長短さまざまな、正に“百景”なエッセイ集
内容は、又吉さんが東京で経験した出来事を、訪れた場所とともに紹介するものです。長さはかなりばらつきがあり、1ページ程度でおさまってしまうものも。長くても1篇10ページもないと思います(私は電子書籍で購入したため、紙ベースだと正直なところがわかりませんが、おそらくそのくらい)百景ですが、構える必要はなく、あっという間に読み切れてしまいます。
私は関東住まいですので、実際自分も訪れたことのある場所が登場するので楽しかったです。
でも、出てくる土地を全く知らなくても全然問題なく楽しめる内容となっています。
感想③人生に対する誠実な姿勢
基本的には笑える話が多いのですが、ものすごく心に刺さる話もあります。「夜を乗り越える」の紹介でも引用しましたが、あまりにも好きすぎてこちらでも引用します。「九十九 昔のノート」より。
死にたくなるほど苦しい夜には、これは次に楽しいことがある時までのフリなのだと信じるようにしている。のどが渇いているときの方が、水は美味い。忙しい時の方が、休日が嬉しい。苦しい人生の方が、たとえ一瞬だとしても、誰よりも重みのある幸福を感受できると信じている。その瞬間が来るのは明日かもしれないし、死ぬ間際かもしれない。その瞬間を見逃さないために生きようと思う。得体のしれない化物に殺されてたまるかと思う。反対に、街角で待ち伏せして、追ってきた化物を「ばぁ」と驚かせてやるのだ。そして、化物の背後にまわり、こちょこちょと脇をくすぐってやるのだ。
「東京百景」又吉直樹、角川文庫、KADOKAWA
これがラストの一歩手前の99番目にあるというのも、またいい。上の一節は私の生きる指針にもなっています。このように、生きるうえでつらい、苦しい、という気持ちを正面から受け止めようとする姿勢に勇気をもらえます。
あと、個人的にとても好きだったのが「七 山王日枝神社」(養成所時代に変わり者扱いされていた話)、「三十八 東京のどこかの室外機」(当時住んでいたアパートがエアコンがつけられない構造で、暑さに苦しむ話)、「九十八 品川ステラボール」(コンビ名をつけてあげた後輩芸人の話)です。
やはり唯一無二の空気感
読み終えて、やはり又吉さんは自分にとって特別な書き手だなぁと再認識しました。
自分に自信はなくても、ネガティブでも、人を傷つけず、むしろ笑いに変える。何気ない出来事に対する愛情に満ちた眼差し。自分もこんなふうに文章が書けたらどんなにいいかと思います。これからもずっと応援します!
気楽に読めて、時に爆笑、時にほろっとさせられ、素直に生きることの大事さのようなものが自然と蘇ってくる本です。とってもとってもオススメです!!
よし、近日中に「月と散文」を単行本で買うぞ!!!