この本を読んだきっかけ
こちら、前回ご紹介した「言い寄る」の続編になります。
(ついては「言い寄る」未読の方はネタバレ注意です!)
前回は主人公・乃里子の恋愛と失恋が描かれていましたが、今回は結婚と離婚までのお話とのことです。
あらすじ
辛く切ない大失恋のあと、剛から海の見えるマンションを見せられて、つい「結婚、する!」と叫んでしまった乃里子、33歳。結婚生活はゴージャスそのもの。しかし、金持ちだが傲慢な剛の家族とも距離を置き、贅沢にも飽き、どこかヒトゴトのように感じていた。「私」の生活はどこにある?
「私的生活」田辺聖子、講談社文庫、講談社
感想
感想①話の組み立て方がうまい!
まず、驚いたのが、前回では遊び相手であった剛と結婚して、3年経ったところから話がスタートするところ。
回想として結婚に至るまでのエピソードも時折盛り込まれますが、物語の時系列としては、結婚の話が出て、結婚するまでの話がズッポリと抜けています。そこが女性としては最も楽しいはずなのに!
しかし、本作では離婚するまでを描くと言うことですから、確かに隙間なく描いていたらこの長さにはまとまりません。
新婚時の話は回想として挟むことで、愛情が消えるまでの過程を丁寧に描くことに注力した、ここが田辺先生のセンスのすごいところだと思います。
また、最後、離婚を決めるのはかなりラストの方だったのにも驚きました。いかに過程を丁寧に描いたか、ということですよね。
感想②恋愛、結婚の苦い部分の「あるある」が満載
50年近く前に書かれたとは思えないくらい、恋愛のあるあるが満載で、深く頷いてしまうところ、かなりありました。
特に、夫である剛の束縛モラハラわがままおぼっちゃま具合は、正直自分にもかなり近い経験があったので、フラッシュバックでクラクラするくらいでした。
剛は超絶お金持ちの一家の長男であり、妻の乃里子は女性なら誰でも一度は夢見るような贅沢な暮らしをします。しかし、夫は乃里子をマンションに縛りつけようとし、自分の希望通りに動くようにコントロールしてきます。自由に友人と会うこともできません。男と会ったと知った日には、もう大変。
乃里子はそれでも剛とうまくやっていくため、我慢し続けます。
やっぱり恋愛・結婚というのは、どちらかが無理して合わせる関係はいつか破綻するなと思います。自分らしく生きられないというのは、人間にとって1番コアな部分を殺してしまうことになります。いくらお金をくれたとしても、やっぱり相性と、お互いがそれなりに精神的に大人であることが大事だと改めて思いました(お前は恋愛コラムニストか)。
感想③田辺さんの純粋な少女感の瑞々しさ
この作品を描いた時は昭和51年(1976年)、田邊さんは48歳ごろ。なのに、主人公の乃里子の擦れていない純粋さ、素直さ、正直さがすごいのは、やっぱり田辺さんご自身がそうだからでしょう。
主人公の乃里子も33歳と、決してすごく若い設定ではないにも関わらず素直なのは、「いくつになっても、自分に正直に生きていいじゃない!」と言われているようで、乃里子と歳の近い私としてはめちゃくちゃ励みになりました。
あと、個人的に衝撃だったのは、乃里子が子どもを持つことに対してネガティブな感情を持つところ。田辺さんの年代なんて、今よりも子供を産んで当たり前、という世代だったはずなのに、めちゃくちゃ意外でした。
そういえば、実は田辺さんはご自身のお子さんを産んでいないんですよね。旦那さんの連れ子さんはたくさんおられたので、お母さんではあったということですが。
ここについても、自分の考え方を大事にしているのだな、と感じました。そして、それがクヨクヨウジウジしていないので、爽やかです。
ラスト第3作目も気になる〜!
さて、恋愛→結婚→離婚と、ジェットコースターのような展開を経て、独身に戻った乃里子はどのように生きるのか、最後には幸せになれるのか!?
また続きの感想もアップしたいと思います!