この本を読んだきっかけ
本作は乃里子という女性を主人公とした「言い寄る」「私的生活」に続く、三部作の完結作になります。ですので、きっかけについては以前の「言い寄る」のブログを参照ください。
白状しますと、最後の作品についてはなかなか手が伸びませんでした。
というのも、私自身が34歳であり、この「苺をつぶしながら」の乃里子は35歳。唯一自分より年をとった設定です。ですので、勝手に乃里子の将来は自分の将来にも重なってくる気がして(これまでの乃里子に非常に共感したこともあり)、少し怖かったためです。
とはいえ、この作品を読まなければ次の本にもなかなか行きづらいということで、勇気を出して読みました!
あらすじ
35歳の乃里子。剛との結婚解消とともに中谷財閥からも解放されて、仕事も昔の友情も取り戻した。一人暮らし以上の幸せって、ないんじゃない?しかし自分の将来の姿もなぞらえていた女友達に悲しい出来事が。そのとき手を差し伸べてくれたのは……。「誰か」がいるから、一人でも生きていける。
「苺をつぶしながら」田辺聖子、講談社文庫、講談社
感想
感想①気のおけない友人たちとの自由な交流がすがすがしい
嫉妬深く、自由に遊びに行くことを咎める夫から解放され(作中、乃里子は離婚のことを「出所」と言っています)、かつての仕事関係で知り合った友人たちと交流を再開させます。時にはいきずりの男性とワンナイトも…笑
個人的には女同士の友情というのはなかなか難しいと感じていますが、乃里子の友人は独身ばかりで、しかも自分の身は自分で立てる自立した女性ばかりで、下手な嫉妬などはありません(かなり年上というのもポイント)。関係の気持ちよさは、作中の描写からも伝わってきます。人間、本当に気が合う友達がいるというのはいいものだなあと感じさせられます。
感想②別れた夫との関係性
2巻目を読み終えたとき、私はもしかしたら元夫は3作目には出てこないのかな?と思っていました。
ですが、剛はしっかり登場します。そして重要な役割も果たします。(剛は東京に拠点を移したため、出会うきっかけは結構強引な感じがしましたが笑。でにそうでもしないと絡みようがなかったのでそれは仕方ない)
私が素敵だなと思ったのはこの2人の関係性。
別れても軽口のきける関係、なんでも正直に話せる関係。すべてを共有したことがあるからこそ互いに思いやれる部分があったりして、読んでいると「なんでこんなにいい雰囲気なのに別れてしまったんだろう?」と思わせられます。
ただ、恋愛関係でもよくありますよね、別れてみて、しばらく間があくとあんなに嫌な思いをしたにも関わらず、すっかり忘れて寄りを戻してしまったりします。個人的には、やはり人間そう簡単には変わらないので、それなりに考えたうえで別れたのであれば、復縁してもまた別れます。
だから、乃里子と剛はこれでよかったのだと思いますし、2人ともそれぞれ自立した大人であったからこそ、これからもそれなりの関係を築いていけるのだと思います。
感想③独り身、35歳を謳歌する姿に勇気をもらえる
とにかくこの作品でよかったのは、せっかくお金持ちと結婚したにも関わらず離婚し、気が付けば35歳、という事実をまっっったく悲観していないところ!むしろ、「今が最高!」という気分が、強がりではなく文面から沸き立ってくるようで、読んでいるだけでワクワクします。
現代は価値観は多様になっている、はずなのに、SNSなどで人と比べて自分を卑下して悲観しがちですよね。でも、周りがどうあれ、自分自身で責任をもって決断してきたなら、それはなんの引け目も感じる必要はないんだな、ということを教えてくれます。きっと田辺先生も、乃里子のように明るく自由で、自立した女性だったのでしょう。この小説が連載されていたのは昭和56年ということですが、古いというよりむしろ先進的な印象すら受けました。
過去を嘆くことなく、何歳になってもハッピーに生きる
3部作のグランドフィナーレを迎え、乃里子の物語はひとつの区切りを迎えました。
ここから学んだのは、いくつになっても前向きに、自分を高め続けることはできるし、失敗だと思ったとしても、そこから新しい関係性が築けることもある、ということ。
この作品が書かれた時代と今は時代の雰囲気そのものが違うと思いますし、そのまま当てはめられない部分もあるとは思いますが、時代がどうあっても自分なりの幸せを作っていくことはできる、という、田辺先生から全女性へのエールを感じました。
私は小説は正直1度読むともう読まないな、と思うことも多いのですが、この3部作は手元に残して時々読み返したいと思います。そう思うくらい、女性のすべてが詰まった作品でした。おすすめです。