ひとつの理想的な人生のかたち 樹木希林「一切なりゆき」

この本を読んだきっかけ

女34ともなると、アラフォーの足音も聞こえ、20代の頃と比べても衰えを感じるようになってきました。そんななか、日に日に気になるようになってきたのは、「理想の歳の重ね方とはどんなものなのか」ということ。女性の生き方もどんどん変化していくなかで、理想のロールモデルを探すのは容易ではありません。

ただ、最近つとに思うのは、「ユーモアのある」人になるというのがとても大事なのではないかということ。見た目は歳とともに衰えても、オモロいことが言える人って、ずっと一緒にいたくなりませんか?

そんななか、最近やたらと気になるのが樹木希林さん。ユーモアがあり、力が抜けていて自然体。ですが一本通った芯がある。
そういえばきちんと樹木希林さんの考えに触れたことがなかったなと思い、以前ヒットしたこちらを手に取りました。

樹木希林(きき きりん)さん 来歴

1943年東京都生まれ。女優活動当初の名義は悠木千帆。後に樹木希林と改名。文学座附属演劇研究所に入所後、テレビドラマ『七人の孫』で森繫久彌に才能を見出される。ドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』などの演技で話題をさらう。出演映画はきわめて多数だが、代表作に『半落ち』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』『歩いても、歩いても』『悪人』『わが母の記』『あん』『万引き家族』などがある。61歳で乳がんにかかり、70歳の時に全身がんであることを公表した。夫はロックミュージシャンの内田裕也、長女にエッセイストの内田也哉子、娘婿に俳優の本木雅弘がいる。2018年9月15日に逝去、享年75。

樹木希林「一切なりゆき ~樹木希林のことば~」文春新書、文藝春秋

概要

この本は、樹木希林さんが永眠された2018年9月の直後の12月に出版された、樹木希林さんの言葉集です。各所の雑誌等でのインタビュー記事からまとめたものとなります。1つ1つが短いので、大変読みやすいです。

構成としては大きく6章に分かれており、
第1章 生きること
第2章 家族のこと
第3章 病いのこと、カラダのこと
第4章 仕事のこと
第5章 女のこと、男のこと
第6章 出演作品のこと
これらのほかに、娘の内田也哉子さんの喪主代理の挨拶、年譜が収録されています。

感想

感想①家族のかたちとは

たびたび思うのは、樹木希林さんもすごいが、娘の也哉子さんがすごい、ということ。

両親があんな感じだし、お母さんは飄々して冷たいし(この本を読むと希林さん、娘さんになかなかなことをしてきてます)、よくあんなに立派な方になられたなと。希林さんの葬儀の立ち居振る舞いですとか、目を見張るものがありました。希林さんは也哉子さんにかなり助けられた部分があると思っています。あと娘婿の本木さんにも。
夫の内田裕也さんの関係も、裁判で争っていたりしたものの、心の底では深く繋がっている。

かなり危なっかしい感じがしますが、つかず離れずのうまいバランスを保っている、ずっと一緒にいるだけが家族ではないというのをよく示してくれている御一家だと思います。

感想②本当に変わってる。でもそれがいい

普段のふるまいからも感じていましたが、本当に樹木希林さんは周りに流されない。自分の考えがしっかりしている。

たとえば、服をほとんど買わず、人からもらったものを使う。場合によっては男物の下着までもらって使ってしまう。また、毛皮の上着にポケットがほしいということで、自分で縫い付けてしまう。昔はCMに出るのは自分の立場を落とすという雰囲気があったが、そこを進んで出演する。
今ミニマリストという考えが注目されていますし、CMはむしろ人気者の象徴となりました。実に先見の明がありますよね。いかに自分の頭で考えることが大事かと思わさせられます。

感想③表紙のこの顔を目指したい

この本の表紙の写真、とってもいい表情ですよね。これはいい人生を送った人にしか出せない表情だと思います。希林さんも本の中で、顔について語っているところがあります。

いい顔したおじいさんってのは多いけど、いい顔をしたおばあさんってのが少ないんですね。そこが、やっぱり、女の許容量の狭さなんだろうと思うんですね。女が徳のある、いいシワのある顔相になるためには、本当にとことん自分のエネルギーを使い果たさないと。そこまで行きつかないとアカが取れないという、女の体質なんじゃないかと思うんですよ。

樹木希林「一切なりゆき ~樹木希林のことば~」文春新書、文藝春秋、p148

これは女性としてはズシッとくる言葉。女がいい顔をした老人になるのは、一筋縄ではいかないようです。老年を迎えた時、いい顔相のおばあちゃんになりたいものです。

印象に残ったことば

最後に、私が特に気に入ったことばを載せます。

人生なんて自分の思い描いた通りにならなくて当たり前。私自身は、人生を嘆いたり、幸せについておおげさに考えることもないんです。いつも「人生、上出来だわ」と思っていて、物事がうまくいかないときは「自分が未熟だったのよ」でおしまい。
こんなはずでは……というのは、自分が目指していたもの、思い描いていた幸せとは違うから生まれる感情ですよね。でも、その目標が、自分が本当に望んでいるものなのか。他の人の価値観だったり、誰かの人生と比べてただうらやんでいるだけなのではないか。一度、自分を見つめ直してみるといいかもしれませんね。
お金や地位や名声もなくて、傍からは地味でつまらない人生に見えたとしても、本人が本当に好きなことができていて「ああ、幸せだなあ」と思っていれば、その人の人生はキラキラ輝いていきますよ。

樹木希林「一切なりゆき ~樹木希林のことば~」文春新書、文藝春秋、p25