人生の先輩方27名の金言は必読 白江亜古「日本女性の底力」

この本を読んだきっかけ

この本と出会ったのは、確か何かの雑誌のおすすめ本として掲載されていたことかと思います。

私自身女性であり、しかも中・高・大学と10年間女子校だったため、ジェンダー関連の話題に触れる機会もあったことから、アンテナにピンと引っかかったものと思われます。

それで購入し、一読したときも相当いい本だと感じていたのですが、このところ自分の生き方に悩むことが多く、再読したところ、ますます感動したため、ご紹介します。

概要

80、90歳になっても、現役。自分の仕事を愛し、生涯を打ち込んだ27人の女性たちの、痛快インタビュー集。戦後の混乱を生き抜き、世の中の移り変わりをその目で見たからこそ伝えたい話。80余年の時間で、気付いた真理。生きることの醍醐味、ピンチと辛苦の乗り越え方――生き方に迷った時、あなたに寄り添い勇気をくれる、強く、凛々しい、人生指南書!

「日本女性の底力」白江亜古、講談社α文庫、講談社

上にありますとおり、この本はインタビュー集、それも、全員シニア世代というなかなかに珍しい本です。登場する女性たちは全員その道のプロ中のプロ。時代としても戦後の、まだ女性差別も根強い時代を生きた女性たちばかりです。
有名どころでは、瀬戸内寂聴さん、森英恵さん、田辺聖子さんなどがおられます。

(なお、この本は2016年初版ですが、2023年7月現在の今では、ほとんどの方が逝去されてしまっていました…。いかに対話相手の選び方が絶妙か、よくわかると思います。)

作者 白江 亜古(しらえ・あこ)さん 来歴

1961年、埼玉県生まれ。ライター。雑誌、書籍、新聞などで活動。人物インタビューのほか、『使いきる。』『毎日すること。ときどきすること。』(ともに有元葉子/講談社)、『スタイルを持ち、身軽に暮らす』(石原左知子/SBクリエイティブ)などのエッセイの構成、『土井家の「一生もん」2品献立』(土井善晴著/講談社)、『落合務のパーフェクトレシピ』(落合務著/講談社)、『ラクラク冷凍レシピ 使えるものだけ! おいしいものだけ!』(大庭英子著/講談社)などの料理本の構成、執筆も手掛ける。

「日本女性の底力」白江亜古、講談社α文庫、講談社

感想

感想①人生を自分らしく生き切った女性の美しい表情を見よ

この本の特徴といいましょうか、とっても良いと思ったのが、すべての女性が、真正面から撮った大きな顔写真が掲載されているというところ。これが本当に全員美しい。もちろん年齢はシニアですが、その刻まれた皺にも生き方がにじみ出ていて、またその表情が皆穏やかなこと!こんな年の取り方をしたい、と強く思いました。

筆者の白江さんも、こう言います。

育った場所も環境も、持っている主義主張も、まるで異なる人たちだけれど、「彼女たち」には共通点があった。
A4変型の大判雑誌のほぼ1ページ大という、ポートレート写真を厭わなかったことだ。「写真をお願いします」と言うと、誰もがカメラに向かって立ち、こちら、つまり読者の方をしっかりと見つめた。風に吹かれて歩いてきたままの髪の乱れ、灼熱の下の勤労で皮膚に深く刻まれた皺のままで、彼女たちは凛としてモノクロ写真に写ってみせた。

「日本女性の底力」白江亜古、講談社α文庫、講談社、p4

ルッキズム全盛期の今、加工一切なしでA4サイズに堂々とおさまることのできる人間はどれくらいいるのでしょうか。彼女たちは自分自身の生き方に誇りがあるからこそ、それができるのでしょう。

感想②酸いも甘いも味わい切った先輩の、含蓄あり過ぎる言葉

もちろん今をときめく芸能人の言葉も意味がないとは言いませんが、やはり80数年自分の道を苦しみながらも歩んできた方々の言葉は重みが違います。読者自身の成長に伴って、読む年齢ごとに感動する場所も異なると思います。

私が印象に残ったものをいくつか挙げます。

堀文子さん(日本画家)
「(略)女とマスコミがしっかりしていれば平和を守れると思ってきたんです。けれども今の日本は、その両方が経済の僕になってしまいましたね。わが子を守るよりも欲しいものを手に入れたり、金持ちになるほうを選ぶ女が増えている。日本人が壊れています。(略)」

「日本女性の底力」白江亜古、講談社α文庫、講談社、p24

朝倉摂さん(舞台美術家)
「ものを買ったり、うまいものを食べたりすることには貪欲でも、日本人って文化の香りがするものにお金と時間をかけませんね。社会意識と美意識が、あまりになさすぎると思う。」

「日本女性の底力」白江亜古、講談社α文庫、講談社、p48

佐藤初女さん(『森のイスキア』主宰)
「みんな、頭ばかりを使って、体や心のことを疎かにしてるのよね。だけど体を心と頭がちぐはぐだと、うまくは生きられないですよ。(略)」

「日本女性の底力」白江亜古、講談社α文庫、講談社、p48

グッサリと刺さる言葉ではないでしょうか。

感想③諸先輩方の生き方から何を学び、どう生かすか

さて、それでは、これらのインタビューを踏まえ、自分はどう生きて行けばいいのか?
非常に難しいところです。
というのも、この本に登場する方々は当然ながら生きてきた時代が今とは違いますし、また、いわゆる一般企業で偉くなった人がいない、ということがあります。順に見ます。

生きた時代が違うということ

彼女たちはみな戦後を経験しています。
親族を戦争で亡くしたり、病気で亡くなる人もかなり多かった時代。少なくとも戦争状態ではない今の私たちに比べて苦労はとてつもなく大きかったと思います。
ただ、現代は現代で、質の異なる困難さがあるともいえ、ある意味戦後の方が自由に生きる芽があった点もあったのではないかと思います。
ですが、時代は違えど普遍的なものがあると思いますので、そのエッセンス部分をうまく自身にスライドさせる知恵が、読者には求められるでしょう。

インタビューされた方々の業種に注目

私が読んでいて気が付いたのは、この本にはいわゆる一般的な大企業の社長などがいない、という点です。ざっくり種類分けしますと、
 〇文化事業関連…5名
 〇芸術家…4名
 〇医療・保育関係…4名
 〇デザイナー…3名
 〇宗教家…2名
 〇作家…2名
 〇芸事関連…2名
 〇政治家・作家夫人…2名
 〇弁護士・平和事業…2名
 〇学者…1名
といったところ。芸術関係が非常に多いこと、または、自分で事業を立ち上げた人がほとんどです。裏を返せば、男社会でのし上がった女性はかなり少なかった、と言えるのではないでしょうか。
(そういった方がまったくいなかった、というわけではないでしょうが)

このことは、正直私には重く感じられました。比較的男女平等が進んだとはいえ、まだまだ男性優位を感じてしまう今日この頃、男性社会の中で自分らしく輝ける女性のロールモデルがいかに少ないかということを感じてしまいました。ここから何を受け取り、自身の生き方に反映させるかは読者それぞれにかなりの裁量で委ねられているといえるでしょう。

とはいえ、上はあくまで私個人の受け止めです。この本が与えてくれる示唆というのはとても深いものであることは間違いなく、またそれが日本人のみ、かつ27人分もまとめて読むことができる、というのはなかなか稀有な作品ですし、非常に勇気づけられる本です。全日本人女性間違いなく必読です。