日航ジャンボ機墜落事故報道を巡る人間模様 横山秀夫「クライマーズ・ハイ」

こちらを読んだきっかけ

1985年8月12日。ちょうど38年前のまさに今日、日航ジャンボ機は御巣鷹山に墜落しました。

私が生まれる前の事故ではありますが、ニュース報道で見るだけでも、「飛行機は落ちることがある」という恐怖心を深く刻まさせられましたし、今でも私は飛行機はなるべく乗りたくないです。そう思うくらいに悲惨な事故だったと思います。

この作品は映画化もドラマ化もされていて超有名でしたし、もちろん知っていたのですが、いかにせん読むきっかけがなかった。

ですが、先日7月27日の有隣堂のYouTubeで絶賛されており、事故の起きた日も近いということもあって、「今読むしかない!」という気持ちで購入しました。ちなみに、初横山秀夫さんです。

あらすじ

1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは——。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。解説・後藤正治

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫、文春文庫、文藝春秋

作者 横山 秀夫(よこやま・ひでお)さん 来歴

1957年東京生まれ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒業後、上毛新聞社に入社。12年間の記者生活を経てフリーライターとなる。91年「ルパンの消息」が第9回サントリーミステリー大賞佳作に選ばれる。98年「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞。2000年「動機」で第53回日本推理作家協会賞・短編部門を受賞する。著書に「半落ち」「顔 FACE」「深追い」「第三の時効」「真相」「影踏み」「看守眼」「臨場」「出口のない海」「震度0」「64」「ノースライト」などがある。

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫、文春文庫、文藝春秋

なんと、横山さん自身がこの事故当時に主人公と同じ新聞記者であったということで、「これは絶対おもしろいはず!」と期待させられます。

感想

感想①社内政治エグい

作品全体を通してヒシヒシと感じたのは、社内政治のエグさ。私もかなり大きめの組織に勤めていますが、確かにありそう…と感じるリアルさでした。

日航ジャンボ機の墜落という前代未聞の事故ですから、当然新聞社一丸となっての大取材となるものと思うじゃないですか。これが全然違う。

部下のスクープを姑息な手段で潰そうとしたり、色々理由をつけて事故関連の記事を小さくしようとしてきたり、とにかく足を引っ張ってくるやつの多いこと。セクション間の立場の違いによる衝突、出世争い、派閥争い…。読んでいてしんどかったです。でも、まだ社会人でない人にとっては、勤め人の人間模様についてとても参考になると思います。

感想②記者のリアルな肌感覚が伝わってくる

普段生活していて、新聞社ってどんな仕事の仕方をしてるかって、全然わかりませんよね。

出来上がった紙面からはその裏で何が起きてるのかは伝わってきませんが、記事の分野ごとに1面を競ったり、紙面の広さで喧嘩したり、新聞社の利害関係者に配慮しないといけなかったり、他者に抜かれないように神経を使った情報戦。1日の新聞ができるまでには色んなセクションが関わっていて、大変な労力が必要なんだなぁ、と、報道に携わる方々への尊敬の念を抱きました。

お仕事本としてもとても勉強になると思います。

感想③ハラハラドキドキの一気読み

主軸は墜落事故の取材に置きつつも、色々な角度の人間模様が絡み合うストーリー展開がとにかく面白い。先が気になって、どんどん読んでしまいました。

主人公の過去、家族関係、かつての部下の親族など、会社内だけにとどまらない重層的な人間模様が物語に厚みを持たせています。

重要なキーパーソンとなるのが社内の山登り友達である安西。彼の「下りるために登るんさ」という意味深な言葉の真意はなんなのか?この問いの答えを、読者は探しながら読み進めることになります。

ちゃんと最後に答えが示されますが、これが泣ける。
そして、これに対する主人公のアンサーもさらに泣けました。

魂の作品

勝手な想像ですが、横山さんはこの作品に並々ならぬ想いを籠めたんだろうな、と思いました。文章を通して、書き手の熱量が伝わってくるような気がしました。

このような作品が一作でも世に出せれば、小説家冥利に尽きるだろうなと羨ましくなるような作品でした。

私がおすすめするまでもなく名作ですが、未読の方にはぜひ読んでほしい作品です。