楽しく反出生主義を学べる 品田遊「ただしい人類滅亡計画  反出生主義をめぐる物語」

今注目の思想(?)「反出生主義」

みなさんは「反出生主義」という言葉をご存じでしょうか。
反出生主義とは、「人間は、生まれてこない方がよかった」「だから、子どもを産むべきではない」という思想のことです。
こういった思想はかなり昔から存在していましたが、近年哲学者のデイヴィッド・ベネターという人が論点として大きく挙げたことで、少子化の流れ等ともあいまって、議論が盛り上がっているようです。

ちなみに、以前紹介した哲学者シオランも、反出生主義の代表的な提唱者です。

学生時代から人の生死についてずっと考えてきた自分としては、大注目の思想であったところ、ある雑誌で同年代の作家である朝井リョウさんがこちらの書評をしており、「めちゃくちゃ気になる!!」と即購入した1冊です。

あらすじ

全能の魔王が現れ、10人の人間に「人類を滅ぼすか否か」の議論を強要する。結論が“理”を伴う場合、それが実現されるという。人類存続が前提になると思いきや、1人が「人類は滅亡すべきだ」と主張しはじめ……!?

「ただしい人類滅亡計画  反出生主義をめぐる物語」品田遊、イースト・プレス

人類滅亡計画、とまた穏やかでないタイトルですが、ご安心ください、上記のとおりフィクションです。
この本は、さまざまな思想を持った10人の登場人物が、人類が滅亡すべきか否かを真面目に議論するという話です。最終的に選ばれた結論はなんだったのか?人類は滅亡してしまうのか?それはぜひご自身でたどり着いていただきたいです。

著者 品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)さん 来歴

さて、このような話を書こうとする人って、いったいどんな人なのだろう?と思いませんか。
以下、品田さんの来歴です。

東京都出身。作家。
著者に『止まりだしたら走らない』(リトルモア)、『名称未設定ファイル』(キノブックス)がある。
「ダ・ヴィンチ・恐山」名義で、株式会社バーグハンバーグバーグ運営の「オモコロ」などの幅広い媒体でライターとしても活動中。

「ただしい人類滅亡計画  反出生主義をめぐる物語」品田遊、イースト・プレス

大変失礼ですが、品田遊さんというお名前は初見でした。ですが「ダ・ヴィンチ・恐山」さんはTwitterで拝見したことがあり、存じ上げていました。フォロワーを多く持つ「アルファツイッタラー」であるということで、こちらの名前の方が馴染みのある方の方が多いのかもしれませんね。アイコンがちょっと不気味だったので、怖い人なのかと思っていましたが、1993年生まれで、同年代の方ということで、親近感が湧きました!

本作の良いところ

①フィクションならではの、ある思想に特化させたキャラクター

現実世界で実際の人物が議論するとなると、それぞれが色んな思想を組み合わせた意見を持っているため、思想ごとの特徴がわかりづらくなってしまうところ、こちらはフィクションですので、一人ひとりにはっきりと「○○主義者」という設定をつけることができます。
こちらの作品では、ブルー=悲観主義者、イエロー=楽観主義者、などと、最初にはっきりとこの人はどういう思想の持主かをはっきりと示してくれていますので、わかりやすいです。

②結論がどうなるかのワクワク感

哲学をやっていた立場からしますと、哲学談義というのは、大体結論が出ないんです!
散々色々あーだこーだ言って、結局結論が出ない…いや、わかります。そもそも難しいことを話し合っているので、結論が出ないことが大概なんです。ですが、「これ、結局うやむやになるんじゃないの?」と思いながら読むのと、「最後どうなるんだろう?」と期待しながら読むのとでは、モチベーションがかなり違います。

③重くなりがちなテーマをポップに扱う気遣い

「反出生主義」という言葉からしてちょっと攻撃的ですし、「人類は生まれるべきでない」なんて、話の持って行き方次第では相当攻撃的な議論になってしまう危険をはらんでいますし、生理的に不快感を持つ方も多い考え方だと思います。
ですが、こちらはそもそもゲーム風のフィクションにしていたり、表紙をポップにしたり、かわいい挿絵が入っていたり、あまりに極端な思想のキャラが出てきたりで、楽しく読むことが出来るよう工夫されており、とても好感が持てました。

これこそ哲学のあるべき姿かもしれない

この作品は、平易な言葉で書いてありますので、自然と登場人物たちとの議論に入り込むことができます。ギリシャ時代の哲学者のソクラテスは対話の中で議論をしていたように、哲学というのは一方的にありがたい教えを聞くだけではなく、自分の頭で考えることが何より大事だと思いますので、この作品はまさに作中でそういったことが行われており、哲学のエッセンスが感じられる一冊になっています。

なにより、私は哲学をやっていたときは、人から反論されることを怖れて、あまり自身の意見を出すことができなかったため、品田さんのように、哲学者ではない立場にも関わらず、一般人にもわかりやすく議論をもちかけてくださる人というのはとても勇気がある方だと思いますし、リスペクトします。

正直、私は反出生主義(作中ではブラックが反出生主義者)の考え方は、非常に合理的で、いい反論が見つけられませんでした。皆さんも、哲学というのは一旦脇に置いて、登場人物たちの議論に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。