この本を読んだきっかけ
田辺聖子さん、有名な作家さんですよね。国語便覧などにもお名前が載っていたような…
ですがどうにも食指が伸びなかったのは、いかにも先進的な明るい女性、という印象があって、暗い自分としては気後れしたのかもしれません。また、関西の方というのも、カルチャーが違いそう、と感じたのもあったでしょう。
そんな私が田辺聖子さんの作品を読もう!と思ったのは、以前こちらでご紹介した「日本女性の底力」の田辺さんのインタビューがあっけらかんとしていてとっても雰囲気がよく、田辺さんの人柄が好きになったためです。また、この作品にも言及しており、俄然読みたくなりました。
あらすじ
乃里子、31歳。フリーのデザイナー、画家。自由な1人暮らし。金持ちの色男・剛、趣味人の渋い中年男・水野など、いい男たちに言い寄られ、恋も仕事も楽しんでいる。しかし、痛いくらい愛してる五郎にだけは、どうしても言い寄れない……。乃里子フリークが続出した、田辺恋愛小説の最高傑作。
「言い寄る」田辺聖子、講談社文庫、講談社
本作は3部作となっていて、「私的生活」、「苺をつぶしながら」がこのあとに続きます。
作者 田辺 聖子さん 来歴
1928年大阪府生まれ。樟蔭女子専門学校国文科卒。’64年『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』で第50回芥川賞、’87年『花衣ぬぐやまつわる……』で第26回女流文学賞、’93年『ひねくれ一茶』で第27回吉川英治文学賞、’94年第42回菊池寛賞、’98年『道頓堀の雨に別れて以来なり』で第50回読売文学賞、第26回泉鏡花文学賞、第3回井原西鶴賞を受賞。’95年紫綬褒章、2000年文化功労者に選ばれ、’08年には文化勲章を受章。小説をはじめ古典や評伝、エッセイ等著書多数。’07年にはデザイナーの乃里子を主人公とした『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』の三部作が新装版として復刊され、世代を超えて女性たちの支持を集めている。2019年6月6日逝去。
感想
感想①色々と時代の違い感じる〜!!!
この作品が連載されていたのは昭和48年(1973年)、約50年前の高度経済成長期!半世紀前ですから、田辺さんが描く女性がいかに進歩的であっても、やっぱり時代の違いを感じざるを得ない!
たとえば、女友達の彼氏の友人が金持ちで、別荘に誘われてアバンチュール。おまけにお隣さんのおじさま(その人の家も別荘)とも体の関係に…って、なかなか想像できないですよね汗。
連絡の取り方も基本固定電話です。
また、主人公の乃理子はデザイナーで生計を立てていて、おそらく当時にしては自立した女性なのですが、やっている仕事はどこか趣味の延長上のようなもの(絵を描いたりとか、人形を作ったりとか)です。儲けにも無頓着ですし、どこか男に頼るような感じもありました。
そこは時代の違いと認識し、差し引いて読む意識が必要でしょう。
感想②恋愛の本質を描きグイグイ読ませる筆力はさすが!
とはいえ、時代は違いますが、いつの時代も変わらぬ女心の揺れ動きがあるため、現代の人でも共感ポイントはたくさんあると思います。
登場する男性は主に3名で三者三様。若い女たらしのボンボンの自由気ままさも、中年の多少枯れた落ち着きや年長者ならではの洗練さ、素直な男性の天然な鈍さも、それなりに良さがありますよね。3人の中で誰が一番好みか、考えながら読めるのではないかと思います。
また、乃理子は自立した女性で、しっかりしている方なので、そのしっかりしたところが裏目に出てしまう感じが、現代の女性、特に長女の方には刺さりまくると思います(私も長女です)。男性はなんだかんだ、か弱い頼ってくれる女性が好きだったりするという…あー女ってつらいわ〜〜(身につまされる〜)
話の展開の仕方、3人の男性との関係の描き方のバランスなど非常によくて、先が気になってどんどん読んでしまいました。
感想③女性だからこそ描けた残酷展開
最初はお気楽展開だったので、なんだこのプレイガールは!と油断していましたが、最後に行くにつれてどんどん事態が悪化し、私的にはかなーり最悪のエンドを迎えます。まさかそんなことが起きるとは、でも、絶対にあり得ないことではないけど…というショックな展開でした。
恋する女にとってこれほど悪夢のような展開もないのでは、と感じるラストでした。これは田辺さんが女性だからこそ、女性が最もダメージをくらう出来事を描くことができたのだと思います。
そんな悲しい展開ですが、最後はカラッとまとめてくれるので、読後感はそこまで暗くなりません。そこは安心してください。
これは続きが楽しみ
本作は3部作の1作目ということですので、最終的には乃里子は幸せになれると信じて読み進めたいと思います。またこちらのブログにもあげたいと思います!