興味を広げる読書術 名作「サロメ」を中心に

どんどん興味が広がるおもしろさ

読書をしていて、ある1冊からどんどん興味が広がっていくこと、ありませんか?
私は、1冊から興味があるものを芋づる式に読んでいく中で、思わぬ発見をしたとき、読書の面白さ、楽しさを再認識します。
また、名作というものは美術や音楽などにも広がっていくことも多く、有機的に知識が繋がるため、記憶に残りやすいのもよいところかと思います。
(自分は記憶力がないので、単発的な知識はすぐどこかにいってしまうので…(^^;)

今回は、私の中で相当広がった作品として、「サロメ」を中心にいくつか紹介したいと思います。

まずはここから!本家本元、オスカー・ワイルドの「サロメ」

よく聞くけど、そもそも「サロメ」って、どんな話なの?
と思った方は、まずこちらを読んでください。
私のオススメは、岩波文庫版。おそらく、オーブリー・ビアズリーの挿絵が最もふんだんに入っているのがこちらだと思います。この作品は、ビアズリーの挿絵なしには良さが半減してしまうのではないかと思うほど、挿絵との相乗効果がすごいのです。
古めの作品ではありますが、ページは絵を入れて100ページほど。一気に読み切ることができる量ですので、早めに読まないと人生もったいないです(言い過ぎ?)!
全くご存じない方のために、念のためざっくりとしたあらすじです。

月の光のもと、王女サロメが妖しくうつくしく舞うー七つのヴェイルの踊りの褒賞に彼女が王に所望したものは、預言者ヨカナーンの首。ユダヤの王女サロメの恋の悲劇を、幻想的で豊麗な文章で描いた、世紀末文学の代表作。

「サロメ」ワイルド、福田恒存(訳)、岩波文庫、岩波書店

挿絵を気に入った方へ

上でも熱く語ってしまいましたが、サロメの挿絵を描いたオーブリー・ビアズリーは白黒画の天才であって、非常に独特な画風が魅力的です。
どこか漫画のようだと感じていたところ、漫画家の山岸涼子さん、魔夜峰央さん(どちらも大好きな漫画家さん)も影響を受けているということで、膝を叩いてしまいました。魔夜さんの画、確かにビアズリーっぽいのです。

もちろんビアズリーに特化した作品集もとってもよいのですが、個人的にはこちら(「ヨーロッパの幻想美術 世紀末デカダンスとファム・ファタール(宿命の女)たち」海野弘、パイインターナショナル)をお勧めします。

「ヨーロッパの幻想美術 世紀末デカダンスとファム・ファタール(宿命の女)たち」海野弘、パイインターナショナル

こちらは、デカダンス(退廃主義)とファム・ファタール(男性を破滅させる女性)に焦点を当てた画集で、ビアズリー以外にもいろいろな作品に触れることができるので、とても楽しいです。デカダンス、ファム・ファタール共に、色々な作品のモチーフとして扱われますので、概要を掴めてよいです。

原田マハさんによる、オスカー・ワイルドとビアズリーの関係に新解釈を加えた小説「サロメ」

あの原田マハさんも、サロメについて、筆をとっています!
こんな興味深いテーマ、取り上げたくなりますよね~
単行本、文庫本どちらもやはりビアズリーの挿絵が表紙となっていて、目が吸い込まれました。

「サロメ」原田マハ、文春文庫、文藝春秋

この作品は、タイトルは「サロメ」ですが、内容はオスカー・ワイルドとビアズリーの禁断の関係を、ビアズリーの姉を中心に描写した作品になります。おそらく史実というよりは、マハさんの解釈が大きいのではないかと思いますが、作品と挿絵の融合感を見ると、どこか納得させられてしまう部分も事実。また、ビアズリーの実の姉が舞台女優だった、というのはこの作品で初めて知りました。そのことが、2人の関係と複雑に絡まり合い、衝撃のラストを迎えます。
原田マハさん未体験の方は、入口としてもよいのではないかと思います。

オスカー・ワイルドの人物像に興味を持った方には

オスカー・ワイルドはその作品だけでなく、自身の生き方も相当に演出した人物であり、スキャンダルも多かったことで知られます。正直、近くにいたらたまったもんじゃない、といった感じの性格ですが、強烈な魅力があります。

「オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家」宮﨑かすみ、中公新書、中央公論新社

そのオスカー・ワイルドの人生について丁寧に著述されているのがこちら(「オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家」宮﨑かすみ、中公新書、中央公論新社)です。
丁寧な取材により、オスカー・ワイルドの思想、人生、最愛の恋人(男)の親から男色を訴えられ裁判に負けたことで、さみしい晩年であったことなど、人物像がよく理解できる一冊です。
オスカー・ワイルドは警句もよく引用されるので、全体として理解しておくと、他の本を読む際にも役立ちます。

ワイルドの他の作品も読みたい!と思った方は

オスカー・ワイルドの代表作と言えば、「サロメ」「幸福な王子」、そしてなんといっても「ドリアン・グレイの肖像」でしょう。「幸福な王子」は童話ですので、子供むけの絵本などで触れたことがある方も多いと思います。
「ドリアン・グレイの肖像」は非常に有名な作品ですので、読んで損はありません。

「ドリアン・グレイの肖像」ワイルド、仁木めぐみ(訳)、光文社古典新訳新書、光文社


ですが、サロメよりは全然分量がありますので(私が読んだ光文社古典新訳文庫では、420ページほど)、そこは覚悟していただきたいですが、細かい章に分かれていますので、そこまで苦ではありません。以下、あらすじです。

美貌の青年ドリアンと彼に魅了される画家バジル。そしてドリアンを自分の色に染めようとする快楽主義者のヘンリー卿。卿に感化され、快楽に耽り堕落していくドリアンは、その肖像画だけが醜く変貌し、本人は美貌と若さを失うことはなかったが…。

「ドリアン・グレイの肖像」ワイルド、仁木めぐみ(訳)、光文社古典新訳新書、光文社

実は、以前からこのあらすじは知っていたのですが、ラストは知らなかったんですよね。
「これ、最後どう着地させるんだろう?」と思っていたのですが、実際読んでみたところ、割と予想通り、といった感じでした笑。
ワイルドらしい派手で耽美的な文体が味わえます。個人的にはどこか三島由紀夫に通じる感じがしましたね。皆さんも、ぜひネタバレなしで読んでいただきたいです。

サロメをモチーフとした音楽

サロメは、オペラ化されてもいます。
こちらを作曲したのはツァラストラはかく語りき(「2001年宇宙の旅」のメインテーマとして有名)で知られるリヒャルト・シュトラウスです(ヨハン・シュトラウスⅠ世・Ⅱ世とは別人です。注意)。

特に聴いていただきたいのは、山場である、サロメがヨカナーンの首をもらうため、王を惑わす踊りを踊る場面の曲(「七つのヴェールの踊り」)です。王を誘惑するため、身に着けた7つのヴェールを1枚ずつ脱ぎ捨てていくという衝撃的な踊りです(オペラですと、体型に自信のある歌手は本当に全裸になることもあるとか。すごい。。。)。サロメの妖絶さが匂い立つような名曲となっています。

蛇足ですが、YouTubeでこちらを検索した際、結構中高生の管弦楽部が課題曲として演奏したりするようで、「中高生でこれ弾くの!?」とちょっとびっくりしました笑。

サロメをテーマにした絵画

サロメをテーマにした絵画も数ありますが、ビアズリーの挿絵とともに異彩を放っているのが、ギュスターヴ・モローの「出現」です。

ギュスターヴ・モロー「出現」

ワイルドの「サロメ」が有名なあまり、ワイルドの「サロメ」を受けてモローがこの作品を書いたのかとおもいきや、実はモローの画が先だったようです。
そもそもサロメの話は聖書の一節であり、その中ではサロメは脇役に過ぎなかったものが、後世において新解釈として、積極的にヨカナーンの首を取りに行こうとする怖い女、という印象で描かれるようになったとのことです。

しかもこのモローという人も興味深い画家でして、長年連れ添ってきた母親との関係性の中で、女性に対する見方が創られていく中で、女性の隠れた凶暴性、のようなものを描くようになったとか…掘り下げていくと、どんどん深みにはまっていってしまいますね笑

最後はオスカー・ワイルドを取り上げた映画

最後にご紹介するのは、オスカーワイルドを題材にした映画です!
いくつかあるようなのですが、1997年制作のその名も「オスカー・ワイルド」は、ワイルドと、その恋人のアルフレッド・ダグラスの関係を描いたものということで、2022年12月現在、配信はされていないようなので、DVDを探すしかないようなのですが、この美しい恋人役が若かりしころのジュード・ロウなのです!!ぜひ写真を検索してみてほしいのですが、さすがの美男子。美しすぎます。
どうにかしていつか観てみたい作品です。

芋づる式読書を楽しもう

思った以上に広がった「サロメ」からの蔓でしたが、個人的には最後のジュード・ロウが美しすぎて、最も感動しました笑
こんなふうに、思わぬ方向で新しい発見があるのが芋づる式読書の楽しみです。
皆さんも、少しでも興味があったら、いろんな方向にかじってみると楽しいかもしませんよ。