トルストイ好きは絶対に買うべき! 最高の名言集「文読む月日」(上・中・下)

この本を知ったきっかけ

私がこの本を知ったきっかけは、何かの雑誌で本特集が組まれており、そこでお薦めされていたことです。
トルストイとあるので、てっきり小説か?と思いましたが、どっこい名言集でした。
しかし、これが本当にすごかった。

本書の内容

1日を1章とし、1年366日、古今東西の聖賢の名言を、日々の心の糧となるよう、結集・結晶させた、一大「アンソロジー」。最晩年のトルストイが、序文だけでも100回以上の推敲を重ね、6年の歳月を費やし、心血を注いで完成させた。総勢170名にものぼる聖賢の名言の数々は、まさに「壮観」。トルストイ自身、「自分の著述は忘れ去られても、この書物だけは、きっと人びとの記憶に残るに違いない」と語り、臨終の数日前にも、娘タチヤーナに10月28日の章を読ませて、「みんないい、みんな簡潔でいい…、そうだ、そうだ…」と呟いたという。トルストイを敬愛してやまない訳者の「心訳」による、わが国初の完全訳。

「文読む月日」トルストイ、北御門二郎(訳)、ちくま文庫、筑摩書房

上記の通り、この本はトルストイが各所から集めてきた名言を、1日あたり5~10篇程度にまとめたものになります。
上・中・下巻の3冊に分かれており、上が1~5月、中が6~9月、下が10~12月とトルストイ略年譜、索引等がついています。

トルストイ 来歴

レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ(1828‐1910)
ロシアの作家、思想家。起伏の多い生涯を通して、ロシア正教会や政府と対立、権力や私有財産の否定、人類愛などを説くいわゆるトルストイ主義に到達。リアリズム小説の完成者であると同時に、実存主義の先駆者ともされる。『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』等。

「文読む月日」トルストイ、北御門二郎(訳)、ちくま文庫、筑摩書房

補足しますと、トルストイは上記の作品で名声を得ていたにも関わらず、これらを否定するに至り、自身の贅沢な生活を恥じ、農民同様の素朴な生活をしたいと家出をし、途中の駅にて病死するという、衝撃的な人生を辿っています。
ドストエフスキーと並び称されるロシアの大文豪です。上記は長編ですが、「イワンのばか」は童話なので、読んだことがある人も多いのではないでしょうか。

訳者 北御門二郎(きたみかど・じろう)来歴

1913年熊本県生まれ。旧制五校時代、トルストイ『人はなんで生きるか』に感激。東大英文科を退学、徴兵拒否して、故郷の山里深くにこもり、農業を営むかたわら、トルストイの翻訳に没入。「翻訳に大切なことは、原書に感動し、読者とその喜びを分かち合いたいと思うこと。だからトルストイが涙して書いたところは、私も泣いて訳します」。トルストイ上記代表作の完訳等の他に、著書『ある徴兵拒否者の歩み』などがある。2004年逝去。

「文読む月日」トルストイ、北御門二郎(訳)、ちくま文庫、筑摩書房

相当にトルストイファンであったという北御門さん。自身も徴兵を拒否したり、農業をしたり、トルストイのような人生。こういった本当に作品を愛している方が訳してくださっていると、こちらも読むのが楽しみになります。丁寧に索引等もつけてくださっていて、ありがたいです。

本作の特徴① 1日ごとのテーマがある名言のチョイス

本作が凄まじいと思うのは、1日あたりいくつかある名言が、似た内容でまとまっていることです。単発で名言を書き留めていて、366個出すだけならまだしも、1日あたり5~10篇程度、しかもテーマを大体揃えるというのは、いったいどんな記録の仕方をしていたのでしょうか。想像がつきません。
ですが、そのおかげで1日分で同じテーマの、複数人の言葉を読むことができ、考えに広がりが出ます。トルストイさまさまであります。

本作の特徴② 1週間の読み物つき

実は、この本のすごさは名言のみではないのです。7日おきに、「1週間の読み物」と題した文章が載っているのです。こちらは、トルストイ自身のものもあれば、引用もあります。ですので、トルストイ自身の作品も複数入っているという点で、トルストイ好きは垂涎の1冊ではないかと思います。

本作の特徴③ 宗教や国の垣根を超えた、しかし宗教的な名言集 

本書で取り上げられている名言は、各国の宗教者のことば(キリスト教・仏教・イスラムどれもあり)や哲学者の言葉が掲載されていますが、“神”、“霊”、“真理”、“善”、“幸福”など、宗教的、哲学的なテーマが多いので、直接実用的な言葉を期待する方はちょっと回りくどく感じるかもしれません。また、時代的なものもありますので、女性に対する見方については疑問を感じる部分もありました。ただ、そういった点も差し引いても、魂に響く本だと思います。

絶対に3冊セットで買ってください

本書で取り上げられている名言は、ひとつひとつが素晴らしい名言であると同時に、これらがトルストイの思想の根底をかたちづくったのだと思いながら読むと、感慨深いものがあります。
また、これらを惜しげもなく後世の人たちに公開してくださったというのも、本当にありがたい。
響く名言が多すぎて、私は3冊ふせんだらけになっています。
毎日その日の名言を読んでいくのも楽しいと思います。正直、これを超える名言集は今後出てこないのでは?とすら感じています。ぜひ3冊セットで傍らに置いてほしい著作です。