“なぜか満たされない”の根本とは 國分功一郎「暇と退屈の倫理学」

この本を読んだきっかけ

この本、実はかなり前から気になっていました。

大きな書店の哲学コーナーでは大抵平積みになっており、タイトルもさることながら、この特徴的な表紙に惹きつけられていました。しかし、いつか読もうと思いつつなかなか手が出ずにいました。

なぜ今読もうと思ったかというと、最近数十年ぶりにあるきっかけでゲーム機を購入したのですが、暇つぶしの最たるものに手を出したことにより、“暇”について改めて理解しておきたいという想いが強くなったためです。

(最近文庫化もされ、より安価に手にすることができるようになりましたが、私はこの表紙がとても気に入ったので、あえて単行本で購入しました)

概要

「わたしたちはパンだけでなく、バラも求めよう。
 生きることはバラで飾られねばならない」

「暇」とは何か。人間はいつから「退屈」しているのだろうか。答えに辿り着けない人生の問いと対峙するとき、哲学は大きな助けとなる。著者の導きでスピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなど先人たちの叡智を読み解けば、知の樹海で思索する喜びを発見するだろう――現代の消費社会において気晴らしと退屈が抱える問題点を鋭く指摘したベストセラー。

何をしていても「コレジャナイ感」がつきまとう、または、そもそも没頭できる趣味が見つからない、という人、意外と多いのではないでしょうか。

「余暇をどう過ごすか」ということは、現代人にとって人生の充実度を測る重大な問題であるにも関わらず、最適解が見えづらい事柄のように思います。そこをテーマに据えた画期的な哲学書です。

國分功一郎さん 来歴

1974年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。高崎経済大学経済学部准教授。専攻は哲学。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『哲学の自然』(中沢真一との共著、太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店)、『来るべき民主主義―小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(幻冬舎新書)、 『社会の抜け道』(古市憲寿との共著、小学館)、『哲学の先生と人生の話をしよう』(朝日新聞出版)、『統治新論―民主主義のマネジメント』(大竹弘二との共著、太田出版)、訳書に、デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、コールブルック『ジル・ドゥルーズ』(青土社)、ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)、オンフレ『ニーチェ』(ちくま学芸文庫)、共訳として、デリダ『そのたびごとにただ一つ、世界の終焉』(岩波書店)、フーコー『フーコー・コレクション4』(ちくま学芸文庫)、ガタリ『アンチ・オイディプス草稿』(みすず書房)がある。

「暇と退屈の倫理学 増補新版」國分功一郎、太田出版

この作品のよいところ

よいところ①わかりやすさ

まず感激したのが、テーマのとっつきやすさとともに、著者の方のスタンスです。

本書は一気に通読されることを目指して書かれており、寄り道となるような議論、込み入った議論、引用文などは、そのほとんどの注のなかに記してある。さしあたって、注は読まなくてよい。

「暇と退屈の倫理学 増補新版」國分功一郎、太田出版、p31

とにかくわかりやすく、最後まで読み通せるように哲学書を書いてくれることのありがたさ!!!
哲学書なんて、最悪数ページで挫折することもあるなかで、筆者の方から歩み寄ってくれるというのは本当にありがたかったです。実際、ずっと興味を失わずに読み通せました!

よいところ②他の哲学者からの引用の巧みさ

この作品のよかったのは、「暇と退屈」というトピックを扱った哲学者の著作を多く引用していることです。博士になられるようになる方はすごいなぁと思うのは、たくさんの(しかも難解な)本を読んだうえで、内容を覚えており、適切なときに適切な議論を引用できるところです…ほんとにすごいです…。
本作も、原著の訳を織り交ぜながら、適宜解説もしてくださるので、今まで知らなかった哲学者の考え方にも親しみを持って触れられるとともに、興味が広がりました!

個人的にとっても嬉しかったのが、私の好きなハイデガーが大きく取り上げられていたこと。
ハイデガーさんって、ほんとに興味深い人なんです。一時期、ハイデガーで卒論を書こうかと思ったくらい(ドイツ語できなくて挫折(^^;)。
取り上げられていた議論も、ハイデガーさんらしく、緻密で、ひとつひとつ積み上げていくところがいいなあと思いましたし、引用されていた「形而上学の根本諸概念」を読んでみたいと思いました。

よいところ③これぞ哲学!

ですが、この作品の醍醐味は、そんな超有名な哲学者の考えについて、ガンガン反論しているところ。
私も哲学をやって驚いたのは、意外と哲学者はトンチンカンなことを言っているな、ということです。有名な哲学者だと正しいことを言っているように思ってしまいますが、結構ツッコミどころが多かったりします。私は当たり前のことに疑問をもち、考えることが哲学のキモだと思っているのですが、それをこの本ではまさにやっておられて、引用しては問題点を鋭く指摘し、退ける、ということがよく起こります。これは本当に内容を理解していないとできないことですので、そういったプロの思考を追随できるところが楽しいです。

趣味に没頭する前に…それ、踊らされてるかも?

さて、最終結論については、皆さんそれぞれでたどり着いていただきたいですが、個人的には、最後の最後の結論がとてもよかったです。「暇と退屈」をどうするか、ということを述べるのかと思いきや、ちょっと違う角度からの結論に、「そうそう!!そうなんだよ!!」と心の中で大喝采しました。

この本の議論のその先について、私もこれから考えていきたいと思います。
読むだけで思考力がアップするような感覚になれ、しかもためになる本です。オススメです!!